解説の続き
§17. 同型定理
群の研究によく利用される2つの同型定理がある。
そのうちの1つをまず述べよう。
第1同型定理
群Gのなかに正規部分群Hと部分群Fとがある。このときFHはGの部分群となり、F∩HはFの正規部分群となる。そのとき、
FH/H≅F/(F∩H)
が成り立つ。
証明
仮定によって、Hは正規部分群だから
(FH)(FH)^-1=(FH)(H^-1F^-1)
=FHH^-1F^-1=FHF=FFH=FH
となりFHはGの部分群となる。HはGの正規部分群だから、もちろんFHの正規部分群である。
またF∩Hの任意の要素をx,Fの任意の要素をfとすると、xがHに属するからfxf^-1はHに属する。またxはFにも属するから、fxf^-1はFにも属する。したがってこれはF∩Hに属する。
だからF∩HはFの正規部分群である。
F/(F∩H)の剰余類を
F∩H,(F∩H)a₁,・・・,(F∩H)ar
とする。もちろんa₁,a₂,…,arはFに属する。
ここでFH/Hのなかで
H,Ha₁,Ha₂,・・・,Har
という集合を考える。
FHの任意の要素をf₁h₁とすると、f₁は(F∩H)aiに属する。f₁h₁はHaiに属する。したがってFHはH,Ha₁,Ha₂,・・・,Harの合併集合に等しい。これらの部分集合は互いに共通部分を有しない。もしHaiとHakが共通部分を有したら
hiai=hkak
となり、aiak^-1=hi^-1hk∈H
一方、aiak^-1はFに属するから、aiak^-1はF∩Hに属する。これは(F∩H)aiと(F∩H)akとが異なる剰余類であるという最初の仮定に反する。したがって、H,Ha₁,Ha₂,・・・,HarはFH/Hの剰余類である。
ここでFH/Hの剰余類とF/(F∩H)の剰余類のあいだには
Hai ↔ (F∩H)ai
(注:実際は上の段で→,下の段で←となっているが書けないのでこうした。)
なる1対1対応が存在する。その対応は右辺が左辺の部分集合になっているような対応である。
そして、そのFH/HではHaiとHakとの積はaiakを含む類となるから、それはF/(F∩H)でも同じくaiakを含む類となる。つまりその対応は同型対応である。したがって
FH/H≅F/(F∩H)
「代数的構造」遠山啓著より
>HはGの正規部分群だから、もちろんFHの正規部分群である。
FHはGの部分集合だから、Gの任意の元aでaH=Haが成り立つならば、FHの任意の元a'でもa'H=Ha'が成り立つから。
>またF∩Hの任意の要素をx,Fの任意の要素をfとすると、xがHに属するからfxf^-1はHに属する。
HはGの正規部分群より、fH=Hfが成り立つ。∴fHf^-1=H
ここで、xがHに属する事より、
fxf^-1∈H
が成り立つという事。
>またxはFにも属するから、fxf^-1はFにも属する。したがってこれはF∩Hに属する。
Fは群より、f,f^-1∈F
よって、定理4.1の系より、
fFf^-1=F
定理4.1の系
Gを群,HをGの部分群とする。このとき、Gの任意の元aについて次の(1),(2),(3)は同値である。
(1)a∈H(2)aH=H(3)Ha=H
「群・環・体 入門」新妻弘・木村哲三著より
ここで、xがFに属する事より、
fxf^-1∈F
よって、上のfxf^-1∈Hと合わせて、
fxf^-1∈Hかつfxf^-1∈F
∴fxf^-1∈F∩H
という事。
>したがってこれはF∩Hに属する。
だからF∩HはFの正規部分群である。
よって、x∈F∩H,fxf^-1∈F∩H
よって、定理3.8.2により、「F∩HはFの正規部分群である」という事。
定理3.8.2
部分群HがGの正規部分群
⇔G∋∀g,H∋∀hに対してg^-1hg∈H
「すぐわかる代数」石村園子著より
>F/(F∩H)の剰余類を
F∩H,(F∩H)a₁,・・・,(F∩H)ar
とする。もちろんa₁,a₂,…,arはFに属する。
上で「F∩HはFの正規部分群である」事を示したのは、剰余群を作るためだと思われるが、剰余類だけなら必要ない。(まぁ、あって困る事はない。)
Fはa₁~arのr個の完全代表系で類別出来るという事である。つまり、
F=(F∩H)∪(F∩H)a₁∪・・・∪(F∩H)ar
かつ
(F∩H)∩(F∩H)a₁∩・・・∩(F∩H)ar≠φ
という事。
>ここでFH/Hのなかで
H,Ha₁,Ha₂,・・・,Har
という集合を考える。
FHをHで類別したらr個より多いか少ないか分からないが、とにかくH,Ha₁,Ha₂,・・・,Harという集合を考えるという事。
>FHの任意の要素をf₁h₁とすると、f₁は(F∩H)aiに属する。f₁h₁はHaiに属する。
上でFをF∩Hで類別したので、
F=(F∩H)∪(F∩H)a₁∪・・・∪(F∩H)ar
よって、Fの任意の元f₁はこのどれかに入るので、f₁∈(F∩H)aiという事。
また、定理より、f₁∈Fai∩Hai
問4.2(上の定理)
群Gの部分集合X,Y,Zと元a,b∈Gについて、
XY={xy|x∈X,y∈Y},
X^-1={x^-1|x∈X}とおく。
このとき、次が成り立つことを示せ。
(6)a(X∩Y)=aX∩aY
(1)~(5)は省略。
「群・環・体 入門」新妻弘・木村哲三著より
∴f₁∈Hai
また、f₁h₁はFHの任意の元よりFHをHで類別した右剰余類のどれかの元であり、
f₁∈Haiよりf₁h₁∈Haiという事。
>したがってFHはH,Ha₁,Ha₂,・・・,Harの合併集合に等しい。
FH=H∪Ha₁∪Ha₂∪・・・∪Har
という事。
>これらの部分集合は互いに共通部分を有しない。
これが言えれば、FHはHで類別するとa₁~arのr個で類別出来ると言えるという事。つまり、
H∩Ha₁∩Ha₂∩・・・∩Har≠φ
(上のFH=H∪Ha₁∪Ha₂∪・・・∪Harと合わせて。)
>もしHaiとHakが共通部分を有したら
hiai=hkak
となり、aiak^-1=hi^-1hk∈H
一方、aiak^-1はFに属するから、aiak^-1はF∩Hに属する。これは(F∩H)aiと(F∩H)akとが異なる剰余類であるという最初の仮定に反する。
「aiak^-1はFに属するから」は、「もちろんa₁,a₂,…,arはFに属する」とFは群だから。
また、「aiak^-1はF∩Hに属する」から、
aiak^-1∈F∩H ∴ai∈(F∩H)ak
また、ai∈(F∩H)aiより、
(F∩H)ak=(F∩H)aiとなり矛盾という事。
>したがって、H,Ha₁,Ha₂,・・・,HarはFH/Hの剰余類である。
FHをHで類別したらa₁~arのr個の完全代表系で類別されるという事である。
>ここでFH/Hの剰余類とF/(F∩H)の剰余類のあいだには
Hai ↔ (F∩H)ai
なる1対1対応が存在する。
同じa₁~arで類別されたからである。
>その対応は右辺が左辺の部分集合になっているような対応である。
Hai ↔ (F∩H)aiの右辺を先の定理で展開すると、(F∩H)ai=Fai∩HaiだからHai の部分集合という事。
>そして、そのFH/HではHaiとHakとの積はaiakを含む類となるから、それはF/(F∩H)でも同じくaiakを含む類となる。つまりその対応は同型対応である。
ここはあまりよく分からないが、上の「Hai ↔ (F∩H)aiなる1対1対応が存在する」から全単射で集合の個数が等しく、包含関係から一致、そこは同型(対応)という事ではないのだろうか。
あまり関係ないが、
定理5.16 線形空間の一致
線形空間V,V'があり、V'⊂Vを満たす。V,V'の次元が同じ有限次元のとき、V=V'となる。
「ガロア理論の頂を踏む」石井俊全著より
念のため、次元が等しいとは基底の個数が等しいという事である。
因みに、
第1同型定理
群Gのなかに正規部分群Hと部分群Fとがある。このときFHはGの部分群となり、F∩HはFの正規部分群となる。そのとき、
FH/H≅F/(F∩H)
が成り立つ。
は、「演習 群・環・体 入門」新妻弘著では、第2同型定理として、準同型定理を使って証明されている。(こっちが王道なのだろう。読み物として面白くないとダメだから、自分のオリジナル理論を多数含めていると思われる。例えば、p.109で例13でGの部分群g₁が正規部分群かどうか調べるのにGの全ての元で調べる訳ではなく、g₁で類別した完全代表系の元だけで良いようである。きっと、高度な技なのだろう。私が今まで読んだ本は入門書なので、そんな技は見た事がなかった。ただし、ミスもあるので鵜呑みには出来ない。)
おまけ: