解説
>定理18によって、有限可換群Gは巡回群の直積である。
これは定理19の事だと思うが、どうだろうか。
定理19
可換群は素数の累乗を位数とする可換群の直積に分解する。
「代数的構造」遠山啓著より
念のため、証明の最後に「このことを続けていくと、まったく同様にGは{a},{b₁},{c₁},…という巡回群の直積になることがわかる」とある。
>ここでC₁,C₂,…,Cmの生成元をc₁,c₂,…,cmとすると、Gの指標χがχ(c₁),χ(c₂),…,χ(cm)の値によって定まる。
一応、指標の定義を書いておこう。
「可換群Gの各要素a,b,…を0でない複素数に写像する関数χ(a)を考え、それが群を絶対値1の複素数の乗法群の中に準同型に写すとき、χをGの指標という。
|χ(a)|=1,χ(ab)=χ(a)χ(b)」
「代数的構造」遠山啓著より
>なぜなら、Gの任意の要素は1通りに
c₁^α₁c₂^α₂・・・cm^αm
という形に表わされて、
χ(c₁^α₁c₂^α₂・・・cm^αm)
=χ(c₁)^α₁χ(c₂)^α₂・・・χ(cm)^αm
となるからである。
よって、χ(c₁),χ(c₂),…,χ(cm)の累乗によってχが定まるからである。
(「Gの指標χがχ(c₁),χ(c₂),…,χ(cm)の値によって定まる」という事。)
念のため、「Gの任意の要素は1通りにc₁^α₁c₂^α₂・・・cm^αmという形に表わさ」る理由は、「G=C₁×C₂×・・・×Cm ここでC₁,C₂,…,Cmの生成元をc₁,c₂,…,cmとする」としたからである。
また、「χ(c₁^α₁c₂^α₂・・・cm^αm)
=χ(c₁)^α₁χ(c₂)^α₂・・・χ(cm)^αm」
これは、χが準同型写像だからである。
>C₁,C₂,…,Cmの位数をそれぞれn₁,n₂,…,nmとし
ω₁=e^(2πi/n₁),ω₂=e^(2πi/n₂),・・・,
ωm=e^(2πi/nm)
としよう。
何故こんな事をするかと言うと、指標の定義より「絶対値1の複素数の乗法群」だからである。
念のため、オイラーの関係式より、
e^iθ=cosθ+isinθ
は、複素平面上の単位円で両辺の絶対値は1である。
>このとき
χ(c₁)=ω₁^β₁,χ(c₂)=ω₂^β₂,・・・,
χ(cm)=ωm^βm
例えば、ω₁=e^(2πi/n₁)は単位円上の点で1のn₁乗根であり、仲間の1のn₁乗根は、1,ω₁,ω₁²,…,ω₁^(n₁-1)のn₁個である。
つまり、χ(c₁)=ω₁^β₁はそのどれか1つを表しているという事。
>このとき
χ(c₁)=ω₁^β₁,χ(c₂)=ω₂^β₂,・・・,
χ(cm)=ωm^βm
となるような指標と、Gのc₁^β₁c₂^β₂・・・cm^βmとなる要素を対応させると、
何故こんな事をするかと言えば、可換群Gと指標群|Gの同型を示すためにまず掛け橋を掛ける訳である。この対応をΦとすると、
Φ(χ(c₁),χ(c₂),…,χ(cm))
=c₁^β₁c₂^β₂・・・cm^βm
>χ'(c₁)=ω₁^β'₁,χ'(c₂)=ω₂^β'₂,・・・,
χ'(cm)=ωm^β'm
にはc₁^β'₁c₂^β'₂・・・cm^β'mが対応し、
また、Φ(χ'(c₁),χ'(c₂),…,χ'(cm))
=c₁^β'₁c₂^β'₂・・・cm^β'm
因みに、本では誤植で「c₁^β'₁,c₂^β'₂,・・・cm^β'mが対応し」となっている。
>χχ'には
χ(c₁)χ'(c₁)=ω₁^(β₁+β'₁),
χ(c₂)χ'(c₂)=ω₁^(β₂+β'₂),
・・・,χ(cm)χ'(cm)=ωm^(βm+β'm)
だから、これは
c₁^(β₁+β'₁)c₂^(β₂+β'₂)・・・cm^(βm+β'm)
=(c₁^β₁c₂^β₂・・・cm^βm)(c₁^β'₁c₂^β'₂・・・cm^β'm)
に対応する
Φ((χ(c₁),χ(c₂),…,χ(cm))・(χ'(c₁),χ'(c₂),…,χ'(cm)))
=Φ((ω₁^β₁,ω₂^β₂,…,ωm^βm)・(ω₁^β'₁,ω₂^β'₂,…,ωm^β'm))
=Φ(ω₁^β₁・ω₁^β'₁,
ω₂^β₂・ω₂^β'₂,…,ωm^βm・ωm^β'm)
(先頭から1つずつ積を取る)
=Φ(ω₁^(β₁+β'₁),ω₂^(β₂+β'₂),…,ωm^(βm+β'm))
=Φ(χ(c₁)χ'(c₁),χ(c₂)χ'(c₂),…,χ(cm)χ'(cm))
=c₁^(β₁+β'₁)c₂^(β₂+β'₂)…cm^(βm+β'm)
(Φの対応を取った)
=(c₁^β₁c₂^β₂・・・cm^βm)(c₁^β'₁c₂^β'₂・・・cm^β'm)
(先頭から1つずつ積を取るの逆)
=Φ(χ(c₁),χ(c₂),…,χ(cm))・Φ(χ'(c₁),χ'(c₂),…,χ'(cm))
(Φの対応を取った)
よって、Φ((χ(c₁),χ(c₂),…,χ(cm))・(χ'(c₁),χ'(c₂),…,χ'(cm)))
=Φ(χ(c₁),χ(c₂),…,χ(cm))・Φ(χ'(c₁),χ'(c₂),…,χ'(cm))
より、Φは準同型写像である。
>同型対応であることがわかる。
Φ(χ(c₁),χ(c₂),…,χ(cm))
=c₁^β₁c₂^β₂・・・cm^βm
より、Φが全射である事は自明。
また、Φ(χ'(c₁),χ'(c₂),…,χ'(cm))
=c₁^β'₁c₂^β'₂・・・cm^β'm
に対して、
c₁^β₁c₂^β₂・・・cm^βm=c₁^β'₁c₂^β'₂・・・cm^β'mとすると、
β₁=β'₁,β₂=β'₂,・・・,βm=β'm・・・①
ところで、χ(c₁)=ω₁^β₁,χ(c₂)=ω₂^β₂,・・・,χ(cm)=ωm^βm・・・②
χ'(c₁)=ω₁^β'₁,χ'(c₂)=ω₂^β'₂,・・・,
χ'(cm)=ωm^β'm・・・③
①,②,③より、
χ(c₁)=χ'(c₁),χ(c₂)=χ'(c₂),・・・,
χ(cm)=χ'(cm)
∴(χ(c₁),χ(c₂),…,χ(cm))=(χ'(c₁),χ'(c₂),…,χ'(cm))
よって、
c₁^β₁c₂^β₂・・・cm^βm=c₁^β'₁c₂^β'₂・・・cm^β'm
ならば
(χ(c₁),χ(c₂),…,χ(cm))=(χ'(c₁),χ'(c₂),…,χ'(cm))
が成り立つので、Φは単射である。
よって、Φは全単射かつ準同型写像より同型写像である。
よって、「同型対応であることがわかる」という事。
おまけ: