解説の続き
例 13
D₄のなかの正規部分群をえらび出せ。
解 まずD₄のすべての部分群を列挙してみよう。
D₄={e,a,a²,a³,b,ab,a²b,a³b}
(a⁴=e,b²=e,bab^-1=a^-1)
という形になるから、D₄自身の他に次のものがある。
g₁={e,a,a²,a³},g₂={e,a²,ab,a³b},
g₃={e,a²,b,a²b},g₄={e,a²},
g₅={e,b},g₆={e,a²b},g₇={e}
まずg₁をしらべてみよう。
Gのg₁による剰余類の代表は(e,b)である。このeとbでx^-1Hxをつくると、
e^-1g₁e={e^-1ee,e^-1ae,e^-1a²e,
e^-1a³e}={ea,a²,a³}=g₁
b^-1g₁b={b^-1eb,b^-1ab,b^-1a²b,
b^-1a³b}={ea,a²,a³}=g₁
したがって正規部分群である。
g₂の場合は、その剰余類の代表は(e,a)である。
e^-1g₂e=g₂
a^-1g₂a={a^-1ea,a^-1a²a,a^-1aba,
a^-1a³ba}={e,a²,a^-1b,ab}
={e,a²,a³b,ab}=g₂
g₂は正規部分群である。
(中略)
結局D₄の正規部分群は
D₄自身
{e,a,a²,a³}
{e,a²,ab,a³b}
{e,a²,b,a²b}
{e,a²}
{e}
である。
「代数的構造」遠山啓著より
>Gのg₁による剰余類の代表は(e,b)である。
これは同値類による類別という奴である。
G=D₄={e,a,a²,a³,b,ab,a²b,a³b}
G=eg₁∪bg₁(部分群g₁で類別)
ここで、eg₁=g₁は自明なので、bg₁を調べると、
bg₁=b{e,a,a²,a³}
={be,ba,ba²,ba³}
={b,ba,ba²,ba³}
∴eg₁∪bg₁={e,a,a²,a³}∪{b,ba,ba²,ba³}={e,a,a²,a³,b,ab,a²b,a³b}=D₄=G
よって、G=eg₁∪bg₁となっていてOK。
>Gのg₁による剰余類の代表は(e,b)である。このeとbでx^-1Hxをつくると、
e^-1g₁e={e^-1ee,e^-1ae,e^-1a²e,
e^-1a³e}={ea,a²,a³}=g₁
b^-1g₁b={b^-1eb,b^-1ab,b^-1a²b,
b^-1a³b}={ea,a²,a³}=g₁
したがって正規部分群である。
要は、g₁が正規部分群である事の証明をしている訳だが、G(D₄)の全ての元で示さなければいけないと思っていたが、完全代表系の元だけで良いようである。残念ながら、これは「群・環・体 入門」新妻弘・木村哲三著や「すぐわかる代数」石村園子著には載っていないと思う。
ただし、後者には、
定理3.8.3
剰余類全体{H,Hg₁,Hg₂,…}は演算
Hg₁・Hg₂=Hg₁g₂
により群をなす。
この証明で、「Hg₁・Hg₂=Hg₁g₂で定義された演算の結果が代表元g₁,g₂のとり方によらず類によって決まることを示しておこう」とあるので、上の証明も全ての元でやらずに(同値類の)代表元だけでやれば十分なような気はする。念のため、意味合いが違う事は分かっているが。
>g₂の場合は、その剰余類の代表は(e,a)である。
e^-1g₂e=g₂
a^-1g₂a={a^-1ea,a^-1a²a,a^-1aba,
a^-1a³ba}={e,a²,a^-1b,ab}
={e,a²,a³b,ab}=g₂
g₂は正規部分群である。
g₂={e,a²,ab,a³b}
これも部分群g₂で類別すると、
G=eg₂∪ag₂
={e,a²,ab,a³b}∪a{e,a²,ab,a³b}
={e,a²,ab,a³b}∪{a,a³,a²b,a⁴b}
={e,a²,ab,a³b}∪{a,a³,a²b,b}
={e,a²,ab,a³b,a,a³,a²b,b}
={e,a,a²,a³,b,ab,a²b,a³b}=D₄=G
よって、OK。
また、a^-1g₂a={a^-1ea,a^-1a²a,a^-1aba,a^-1a³ba}
={e,a²,ba,a²ba}
ここで、bab^-1=a^-1より、ba=a^-1bを使うと、
={e,a²,a^-1b,a²・a^-1b}
={e,a²,a³b,ab}(a⁴=eより)
={e,a²,ab,a³b}=g₂
よって、a^-1g₂a=g₂が成り立つ。
一応、正規部分群の定義を挙げておこう。
定義5.1
Gのすべての元aに対しaH=Haとなるとき、あるいは、いいかえるとGのすべての元aに対しaHa^-1=Hとなるとき、HをGの正規部分群または不変部分群といい、H⊴Gで表す。
「群・環・体 入門」新妻弘・木村哲三著
定理3.8.2
部分群HがGの正規部分群
⇔(NS)G∋∀g,H∋∀hに対してg^-1hg∈H
(「NS」はnormal subgroupより)
「すぐわかる代数」石村園子著
補足
「(NS)は正規部分群であるための必要十分条件です」
「すぐわかる代数」石村園子著
おまけ: