解説
>乗法を定義するにはどうしたらいいだろうか。
[a,b]・[c,d]
について考えてみよう。a<b,c<dのときはそれらはℕのなかのb-a,d-cに対応する。
(b-a)(d-c)=bd+ac-ad-bc
=(bd+ac)-(ad+bc)
となるからこれはℕ²のなかの[ad+bc,bd+ac]となるわけである。このことから
[a,b][c,d]=[ad+bc,bd+ac]
と定義したらうまくいきそうである。
初めは、[a,b]・[c,d]を[a・c,b・d]などと定義してもあまりメリットがなかったのだろう。
そこで、前回の大小関係からa<bの場合は[a,b]>0としたので、
「a<bのときはベクトルは左から右に向いているが、a>bならば右から左に向く。
またa=bならばベクトルの長さは0であり、これがベクトルの0に当たる。だから、a=bのときを新しい0,a>bのときを新しいマイナスとみることもできるのである。
以上のように考えると0や負数が自然と導入されたことになる。」
「代数的構造」遠山啓著p.172~173より
a<bの場合、[a,b]とb-a∈ℕを対応させたら(c<dの場合、[c,d]とd-cを対応させる)、
[a,b]・[c,d]=(b-a)(d-c)
=bd+ac-ad-bc
=(bd+ac)-(ad+bc)
ここで、a<bの場合は[a,b]>0,c<dの場合は[c,d]>0より、[a,b]・[c,d]>0
∴(bd+ac)-(ad+bc)>0
∴ad+bc<bd+ac
よって、
=[ad+bc,bd+ac]
と対応させられる。
「このことから
[a,b][c,d]=[ad+bc,bd+ac]
と定義したらうまくいきそうである」という訳である。
>この定義にしたがって乗法の諸性質を導き出すことができるだろう。試みにそのうちの二,三の性質を導き出してみることにする。
あらかじめ断っておくが、以下の叙述は煩雑を極めるであろう。しかしそれを読者に覚えてもらうために、のべるのではない。それはこの方法がいかに煩雑であり、読者を見透しのない迷路にひき込んでしまうかを体験してもらうためである。
この予告は、全くのガセネタである。読めば分かるように大して煩雑ではない。何故こんなはったりのような事を述べたのか謎である。(続きで出て来るクロネッカーが関係しているのかな?)
>まず、加法の場合と同じく、[a,b]~[a',b'],[c,d]~[c',d']のとき、
[a,b][c,d]~[a',b'][c',d']
となることを証明しよう。
[a,b][c,d]=[ad+bc,ac+bd]
[a,b][c',d']=[ad'+bc',ac'+bd']
ここで(ad+bc)+(ac'+bd')と(ac+bd)+(ad'+bc')とを比較してみよう。
(ad+bc)+(ac'+bd')
=ad+bc+ac'+bd'
=a(d+c')+b(c+d')
([c,d]~[c',d']だからc+d'=d+c')
=a(c+d')+b(c'+d)
=ac+bd+ad'+bc'
だから
[a,b][c,d]~[a,b][c',d']
また[a,b]~[a',b']のときは同様に
[a,b][c',d']~[a',b'][c',d']
~は推移的だから
[a,b][c,d]~[a',b'][c',d']。
まぁ、証明のアイデアとして、
[a,b][c,d]~[a',b'][c',d']を証明するのに、
[a,b][c,d]~[a,b][c',d']と
[a,b][c',d']~[a',b'][c',d']に分けて
最後に推移律で証明するのは見事だとは思うが、読む分には普通に簡単である。
>まず、0をかけると0になることを証明してみよう。
[a,b][c,c]=[ac+bc,bc+ac]
=[ac+bc,ac+bc]
つまり右辺は2つの成分が等しいから0に相当する。
「§3.0の存在
[c,c]は0と同じ役割を演ずる。
[a,b]+[c,c]=[a+c,b+c]
ここで
a+(b+c)=a+(c+b)=(a+c)+b
したがって
[a,b]~[a+c,b+c]
だから[c,c]は加えても同じ類の中をかえるだけで、類はかえない。だから、これは0と同じである。」
2025/7/28 15:59の投稿より
単純に[a,b]・[c,d]=[a・c,b・d]と定義していたら、[a,b][c,c]=[ac,bc]で0にはならなかった。やはり、試行錯誤したのだろう。
因みに、上の「代数的構造」遠山啓著p.172~173のベクトルで考えれば、[c,c]が0を意味する事は自明だね。
>また、[a,b][c,d]と[a,b][d,c]を比較してみよう。
[a,b][c,d]=[ad+bc,ac+bd]
[a,b][d,c]=[ac+bd,ad+bc]
2つを比較すると、順序が入れかわっているから
x(-y)=-(xy)
の規則に相当する。
読めば簡単に分かるが、
「[a,b]+[b,a]=[a+b,b+a]=[a+b,a+b]
つまり、これは0であるから[b,a]は[a,b]の反要素(符号をかえた)に相当する。だから
[b,a]=-[a,b]
と書いてもよいだろう。」
2025/7/28 15:59の投稿より
これによる。
>結合法則:
([a,b][c,d])・[e,f]
=[ad+bc,ac+bd]・[e,f]
=[(ad+bc)f+(ac+bd)e,(ad+bc)e+(ac+bd)f]
=[adf+bcf+ace+bde,ade+bce+acf+bdf]。
[a,b]([c,d]・[e,f])
=[a,b][cf+de,ce+df]
=[a(ce+df)+b(cf+de),a(cf+de)+b(ce+df)]
=[ace+adf+bcf+bde,acf+ade+bce+bdf]
この2つの結果を比較するのも容易ではないが、煩雑をいとわず、ひとつひとつの項を点検してみると、確かに等しいことがわかる。だから
([a,b][c,d])・[e,f]=[a,b]([c,d]・[e,f])
が証明された。
ここが極め付けである。「この2つの結果を比較するのも容易ではない」って中1の算数から数学に移行した学生じゃないんだから。
>この辺まで述べてみると、この行き方の煩雑さは十分体験できたと思うので、後は省略することにしよう。
因みに、2025/7/28 15:59の投稿の列の2025/7/29 11:15の投稿から、
解説
>つまり、このようにして定めた[a,b]は加法について群をつくることがわかったのである。
「[c,c]は0と同じ役割を演ずる」から加法の単位元の存在。
「[b,a]は[a,b]の反要素(符号をかえた)に相当する。だから[b,a]=-[a,b]」から加法の逆元の存在。
添付ファイルの「結合法則」。
添付ファイルの「加法において同じ類のもので置き換えても和の属する類は同じになる」から加法について閉じている。
よって、加法について群をなすと言っているのだと思いますが、おかしくないですか。
群は作らないですよね(理由は2025/7/29 14:04の投稿)。自然数の集合も群を作る訳ではないので、構わないでしょう。
煩雑じゃないけど、理解するのは非常に大変だと思います。
補足
「自然数ℕから整数ℤを創り出すにも、クロネッカーの流儀によるとこれほどの煩雑が生じたが、さらに進んで、分数,有理数等を考えるようになるとその煩雑さはほとんど堪えがたいものになってくる。
整数から有理数をつくるには、後でのべるような商体をつくるという方法が用いられるが、それは、また(整数,整数)という形の2つの整数の組によって定義されるのである。
この整数は2つの自然数によって定まるものとすれば有理数は((自然数,自然数),(自然数,自然数))という形によって定まる。つまり一般の有理数は4個の自然数」の組によって定められることになる。これを計算することはほとんど絶望的な煩雑さを引き起こすだろう。
クロネッカーは神の創り給うた自然数に執着したために、たとえばπのような無理数に市民権を認めなかった。
だが、彼が自己の信条にあくまで忠実であったか、というと必ずしもそうではない。彼の数多い論文のなかには微分や積分に関するものが少なくない。ところが、微分も積分も実数の連続性を認めないかぎり意味のないものであるから、彼の主張は矛盾しているともいえる。
このことをポアンカレは揶揄的に述べている。
「クロネッカーが偉大な数学者であり得たのは、彼が自分の主張に忠実でなかったからだ。」」
「代数的構造」遠山啓著より
おまけ:
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%BB%92%E7%94%B0%E6%88%90%E4%BF%8A#:~:text=%E9%BB%92%E7%94%B0%20%E6%88%90%E4%BF%8A%EF%BC%88%E3%81%8F%E3%82%8D%E3%81%A0%20%E3%81%97%E3%81%92%E3%81%A8,%E3%81%AF%E9%96%A2%E6%95%B0%E8%A7%A3%E6%9E%90%E3%80%81%E6%95%B0%E7%90%86%E7%89%A9%E7%90%86%E3%80%82