解説
>加群M(もちろん可換である)をMの中に同型に写す写像をαとする。
α:M→M(u→α(u))
また、αは準同型写像かつ全単射である。
という事。(図4.5はない方が分かり易いかもしれない。)
>αはMの要素uをαuに写すものとして、Mの2つの要素に対して
α(u+v)=αu+αv
なる条件を満足するαはMの内部の準同型を与えている。
α(u+v)=αu+αvという約束を写像αに課すという事。
定義6.1
演算◦をもつ群(G,◦)と演算*をもつ群(G',*)に対して、GからG'への写像f:G→G'が
∀a,b∈G,f(a◦b)=f(a)*f(b)
なる条件を満足しているとき、fをGからG'への準同型写像という。
「群・環・体 入門」新妻弘・木村哲三著より
つまり、α(u+v)=αu+αvは、このfをαにして、◦と*を共に+にした状態であるという事。
>加法は
(α+β)u=αu+βu
と定義する。
このとき、
(α+β)(u+v)=α(u+v)+β(u+v)
=(αu+αv)+(βu+βv)
=(α+β)u+(α+β)v
したがってこのように定義されたα+βはやはりE(M)に属する。
(α+β)(u+v)=(α+β)u+(α+β)vより、写像α+βも準同型写像なので、α+β∈E(M)
つまり、α,β∈E(M)に対してα+β∈E(M)なので、E(M)は加法について閉じているという事である。
念のため、「α(u+v)=αu+αvという約束を写像αに課」しているので、α∈E(M)
>E(M)のなかにはすべてのuを0に写すものφも含まれる。すなわち、
φ(u+v)=0,φ(u)=0,φ(v)=0だから
φ(u+v)=φ(u)+φ(v)
が成立し、φはE(M)に含まれる。
いわゆる零写像である。そして、0なので、0+0=0より、φ(u+v)=φ(u)+φ(v)が成り立つという事。よって、φも準同型写像なので、φ∈E(M)
念のため,このφは空集合ではない。
>また
(-α)(u)=-α(u)
なる-αを考えると
α+(-α)=0
となることは明らかである。
上から、
「加法は
(α+β)u=αu+βu
と定義する。」
このαを-αにしてβを0(零写像)にすると、
(-α+0)u=-αu+0u
よって、(-α)u=-αuとなる-αという写像を考えられる。(uに括弧を付けるか付けないかは加法と乗法の定義の時の違いである。)
あとは移項して消去律を使えば良い。(本では詳しく触れていないので、厳密性にはこだわらない。)
>同じく
(α+β)+γ=α+(β+γ)
も明らかである。
一応、やっておく。
{(α+β)+γ}(u)=(α+β)(u)+γ(u)
=α(u)+β(u)+γ(u)
=α(u)+(β(u)+γ(u))
=α(u)+(β+γ)(u)
={α+(β+γ)}(u)
∴(α+β)+γ=α+(β+γ)
>したがってE(M)はこのような加法については加群をなすことは明らかである。
上の「α+φ=α」で加法の単位元の存在。
上の「α+(-α)=0」で加法の逆元の存在。
上の「α+βはやはりE(M)に属する」で加法について閉じている。
上の「(α+β)+γ=α+(β+γ)も明らかである」で加法の結合法則。
以上より、加法群をなすという事。
>また
α(β+γ)(u)=α(β(u)+γ(u))
=α(β(u))+α(γ(u))
=αβ(u)+αγ(u)=(αβ+αγ)(u)
したがって
α(β+γ)=αβ+αγ
同様に
(β+γ)α=βα+γα
も証明できる。
一応、(β+γ)α=βα+γαもやっておくか。
{(β+γ)α}(u)=(β+γ)α(u)
=β(α(u))+γ(α(u))
=βα(u)+γα(u)
=(βα+γα)(u)
∴(β+γ)α=βα+γα
>したがってE(M)は環をつくる。このような環をMの自己準同型環という。
環の定義
つぎのような2種類の結合+,×をもつ集合Rを環と名づける。
1.+については可換群をなす。すなわち、
a+b=b+a
(a+b)+c=a+(b+c)
単位元を0で表わす。すなわち、任意のaに対して
a+0=a
aの逆元を-aで表わす。
a+(-a=0
2.×については結合法則が成り立つ。
(ab)c=a(bc)
3.+と×のあいだには分配法則が成り立つ。
a(b+c)=ab+ac
(b+c)a=ba+ca
以上の条件を満足するRを環という。
「代数的構造」遠山啓著より
上で全部示しているので、E(M)は環をなすという事である。
また、「加群MをMの中に同型に写す写像をα」と「このような準同型の全体をE(M)と」したので、「Mの自己準同型環」という事。
因みに、「加群M(もちろん可換である)をMの中に同型に写す写像をαとする」は、準同型の誤植のような気もするのだが、この手のものは素人には判断しかねるので、
「本書は、1972年5月30日、筑摩書房より「数学講座」第10巻として刊行された。文庫化に当たり旧数学用語を改め、誤植を訂正した。」
を信じてそのままにした。ただし、結構誤植ありますが。
おまけ: