問題
線型空間Vにおいて
(ⅰ)V∋a,bが線型独立,V∋x≠0ならば、{a,x}と{b,x}の少なくとも一方が線型独立であることを証明せよ。
(ⅱ)V∋a,b,cが線型独立,V∋x,yが線型独立ならば、{a,x,y},{b,x,y},{c,x,y}の少なくとも一組が線型独立であることを証明せよ。
回答
(ⅰ)a,bが線型独立より線型従属でないので、aとbは一直線上にない。
ここで、{a,x}が線型従属とすると、aとxは一直線上にあり、上よりaとbは一直線上にないので、bとxも一直線上にない。
よって、bとxは線型従属でないので線型独立である。
{b,x}が線型従属としても同様の議論が成り立つので、{a,x}と{b,x}の少なくとも一方は線型独立である。
補足
a,bが線型従属だとa,bが一直線上にある理由。
a,bが線型従属より、c₁a+c₂b=0とするとc₁,c₂が共に0以外のものが存在する。よって、a=(-c₂/c₁)b よって、ベクトルaとベクトルbは一直線上(起点が違えば平行)にある。
別解(多少のアレンジ)
{a,x}と{b,x}の両方とも線型従属と仮定すると、aとx,bとxがそれぞれ一直線上にあるので、aとbは一直線上にある。ところで、問題の仮定よりa,bは線型独立なので一直線上にない。よって、矛盾が生じるので、背理法により、{a,x}と{b,x}の少なくとも一方は線型独立である。
(ⅱ){a,x,y},{b,x,y},{c,x,y}が全て線型従属と仮定すると、問題の仮定よりx,yが線型独立なので、a,b,cはそれぞれx,yが生成する平面上にある。ところが、問題の仮定よりa,b,cは線型独立なので、a,b,cは同一平面上にない。よって、矛盾が生じるので、背理法により、{a,x,y},{b,x,y},{c,x,y}の少なくとも一組は線型独立である。
原型の解法
a,b,cが線型独立より、a,bが線型独立でcはa,bが作る平面に入っていない。
ここで、{a,x,y}が線型従属とすると、問題の仮定よりx,yは線型独立なので、aはx,yが作る平面上にある。
また、{b,x,y}と{c,x,y}も線型従属とするとxとyは線型独立で、b,cもx,yが作る平面上にある事になり、a,b,cは同一平面上にあり線型従属で、矛盾が生じる。
よって、{a,x,y},{b,x,y},{c,x,y}の少なくとも一組は線型独立である。
補足
a,b,cが線型独立だと、a,bが線型独立でcはa,bが作る平面に入っていない理由は、命題(3.1.7)の(ⅱ)。
命題(3.1.7)
Vを数体K上の線型空間,a₁,…,an∈Vとする。
(ⅰ)ただ一つの元a₁∈Vに対しては
a₁が線型独立 ⇔ a₁≠0
(ⅱ)a₁,…,an(n≧2)が線型独立
⇔a₁,…,an-1が線型独立でan∉Ka₁+…+Kan-1
もっとも例(3.1.8)(ⅲ)を見なさいと教えるのが定石だろう。
例(3.1.8)
普通の空間E³の一点Oを零元とする実線型空間(E³,O)を考える。三つの点A,B,C∈E³に対し
(ⅰ)Aが線型独立⇔A≠O
(ⅱ)A,Bが線型独立⇔A≠O,かつB∉ℝA
⇔OABが三角形をつくる。
(ⅲ)A,B,Cが線型独立
⇔A,Bが線型独立,かつC∉ℝA+ℝB
⇔OABが三角形をつくり、C∉平面OAB
⇔OABCが四面体をつくる。
「線型独立の概念は、線型代数学の学習上最大の難所とも言え、初心者には難しい。その定義は明確なのであるが、その意味が容易に把握できない所にその原因がある。しかしこの概念は、今後座標を導入するために欠くべからざる重要なものである。線型独立の理解なくして線型代数学の理解はありえないのであるから、読者は是非この概念を自分のものにしてほしい。」
「線型代数入門」有馬哲著より
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