解説
>定理6.5
Kを有限体,f(X)を多項式環K[X]に属するモニックな多項式でdegf(X)>0とする。このときf(X)が、その中では1次式の積に分解するようなKの拡大体Lが存在する。
問題の意味は、まず、Kは有限体に限らずに解説する。例えば、Kを有理数体ℚとして、
f(X)=X²+X+1とすると、
X²+X+1=0の解はX=(-1±√3i)/2なので、f(X)=[X-{(-1+√3i)/2}][X-{(-1-√3i)/2}]
と因数分解出来、(-1±√3i)/2は複素数体ℂの元なのでℚの拡大体である。
つまり、当たり前な話なのである。
例えば、f(X)=X²+X-1とすると、
X²+X-1=0の解はX=(-1±√5)/2なので、f(X)=[X-{(-1+√5)/2}][X-{(-1-√5)/2}]
と因数分解出来、(-1±√5)/2は実数体ℝの元なのでℚの拡大体となりOK。
「1次式の積に分解するようなKの拡大体Lが存在する」事がイメージ出来るだろう。
因みに、モニックとは最高次の係数が1である事である。
「多項式f(X)の最高次の係数が1のとき、f(X)をモニックな多項式という。」
「群・環・体 入門」新妻弘・木村哲三著より
また、degは次数である。
定義4.1
Rを可換環とする。Rとは関係ない文字XをR上の不定元(あるいは変数)という。R上のXの多項式とは
f(X)=anX^n+an-1X^(n-1)+…+a₁X+a₀(ai∈R)
の形の式のことであるとする。an≠0のとき、f(X)はn次の多項式である。また、nをf(X)の次数といいn=degf(X)で表す。
「群・環・体 入門」新妻弘・木村哲三著より
>n=1あればf(X)=X-a(a∈K)となるから定理は、当然、正しい。
n=1の場合は1次式なので因数分解する必要もない場合で、具体例で考えると、
f(X)=X-a(a∈ℚ⊂ℂ)なので、拡大体が存在するという事である。
>f(X)が既約であれば補題1により、f(X)の根αを含むKの拡大体L'が存在する。
補題1
Kを有限体,f(X)を多項式環K[X]に属する既約多項式とする。そのとき、環L=K[X]/(f(X))はKの拡大体であり、Xの剰余類 |Xはf(X)のLにおける根である。
まずは、f(X)が既約多項式の場合を証明するという訳である。補題1により拡大体L'が存在する事は分かるだろう。また、|X=αである。(「Xの剰余類 |Xはf(X)のLにおける根」だから。)
よって、「f(X)の根αを含むKの拡大体L'が存在する」という事なのだが、あまりピンと来ない人のために、ここでもKをℚにして具体的に考える。
例3.5
有理数体ℚ上の1変数の多項式環ℚ[X]において、多項式X²-2によって生成されたイデアル(X²-2)による剰余環ℚ[X]/(X²-2)と体ℚ[√2]は環として同型である。
イデアル(X²-2)はX²-2の倍数の集合と考えて貰って良い。そして、剰余環ℚ[X]/(X²-2)は任意の多項式f(X)をX²-2で割った余りの集合である。X²-2で割った余りなので、aX+b(a,b∈ℚ)で表される。
つまり、ℚ[√2]={a+b√2|a,b∈ℚ}と同型である事は自明である。また、√2がX²-2の根である事から、「f(X)の根αを含むKの拡大体L'が存在する」事がイメージ出来るだろう。
念のため、ここでは、ℚ[√2]がℚの拡大体という事。
>L'[X]において、f(X)をX-αで割れば、定理4.5の系より
f(X)=(X-α)g(X),g(X)∈L'[X]
でなければならない。
定理4.5の系(因数定理)
f(X)∈K[X],α∈Kとする。このとき、f(α)=0であるための必要十分条件は、ある多項式g(X)∈K[X]が存在して、
f(X)=(X-α)g(X)
と表されることである。
要は、αはf(X)の根なので、X-αで割れば割り切れ、f(X)∈L'[X]よりX-α∈L'[Ⅹ]で割った商g(X)もg(Ⅹ)∈L'[X]という事である。(念のため、α∈L'だからX-α∈L'[X]である。)
>g(X)の次数はn-1であるから、帰納法の仮定により、L'の拡大体Lで、L[X]においてはg(X)が1次式の積に分解するような体Lが存在する。
上で「f(X)=(X-α)g(X),g(X)∈L'[X]」となり、f(X)がn次式なので、g(X)はn-1次式である。よって、数学的帰納法の仮定により、g(X)は1次式に分解されそのような体Lが存在するという事である。(「そのような」とはL'の拡大体という事。)
>したがって、f(X)はL[X]で1次式の積に分解する。
上の「f(X)=(X-α)g(X),g(X)∈L'[X]」で、g(X)がn-1個の1次式に分解されるので、(X-α)をかけたf(X)がn個の1次式に分解され、そのような体Lが存在するという事である。
>(ⅱ)f(X)が可約であれば、f(X)の既約因子の1つをf₁(X)とする。f₁(X)に対して、補題1を適用すれば
f₁(X)=(X-α)g(X),α∈L',g(X)∈L'[X]
を満たすKの拡大体L'の存在が証明される。
(ⅰ)は既約の場合に定理が成り立つ事を証明し、可約は既約多項式の積なので、成り立つ事は自明である。ただし、既約因子によって、具体例ではℝやℂに分かれるだろうが、成り立つ事は間違いない。念のため、証明は有限体での証明である。
前言撤回、根性がある中学生にしか理解出来ないだろう。
おまけ: