例6.8
定理6.8により同じ個数の元からなる2つの有限体は同型であるが、この同型写像は一意に定まるものではないことを例示する。
F₂[X]/(X³+X+1)≃F₂[X]/(X³+X²+1)
X³+X+1とX³+X²+1はともにF₂[X]の既約多項式であるから、補題1によりF₂[X]/(X³+X+1)とF₂[X]/(X³+X²+1)はともにF₂の拡大体であり、それらのF₂上の拡大次数は定理6.4によりいずれも3である。したがって、F₂[X]/(X³+X+1),F₂[X]/(X³+X²+1)はともに8個の元よりなる体となり、定理6.8により、2つの体は同型である。F₂[X]/(X³+X+1)におけるX³+X+1の根 |Xをα,F₂[X]/(X³+X²+1)におけるX³+X²+1の根 |Xをβとおけば、
F₂(α)=F₂[X]/(X³+X+1)
F₂(β)=F₂[X]/(X³+X²+1)
F₂(α)は{1,α,α²}のF₂係数の1次結合であり、F₂(β)は{1,β,β²}のF₂係数の1次結合であるから(定理6.4)
F₂(α)={0,1,α,1+α,α²,1+α²,α+α²,
1+α+α²}
F₂(β)={0,1,β,1+β,β²,1+β²,β+β²,
1+β+β²}
F₂(α)からF₂(β)への任意の同型写像をσとする。このとき、
σ(α³+α+1)=0,
{σ(α)}³+σ(α)+1=0。
これはσ(α)がF₂(β)の元で方程式X³+X+1=0の根でなければならないことを意味する。F₂(β)*をその生成元βにより
F₂(β)*={β,β²,β³,β⁴,β⁵,β⁶,1}
と表し、この中からX³+X+1=0の根となるものを直接計算して求めれば
β³,β⁵,β⁶
となる。
F₂(β)の元 X³+X²+X=0の根 X³+X+1=0の根
0
1
β ○
1+β=β⁵ ○
β² ○
1+β²=β³ ○
β+β²=β⁶ ○
1+β+β²=β⁴ ○
αの像σ(α)をβ³,β⁶,β^12=β⁵のいずれに定めてもF₂(α)からF₂(β)の上への同型写像が与えられる。このことの証明は読者の演習として残しておくことにする。以上により、元の個数が8である体の同型は一意的に定まるものでないことが示されたことになる。」
「群・環・体 入門」新妻弘・木村哲三著より
解説の続き
>「αの像σ(α)をβ³,β⁶,β^12=β⁵のいずれに定めてもF₂(α)からF₂(β)の上への同型写像が与えられる」事の証明をして下さい。
「F₂[X]/(X³+X+1),F₂[X]/(X³+X²+1)はともに8個の元よりなる体となり、定理6.8により、2つの体は同型である」ので、「F₂(α)からF₂(β)への任意の同型写像をσとする」と、「β³,β⁵,β⁶となる」。
(ⅰ)σ(α)=β³の場合、
F₂(α)={0,1,α,1+α,α²,1+α²,α+α²,
1+α+α²}
σ(0)=0
σ(1)=1
σ(α)=β³
σ(1+α)=σ(1)+σ(α)=1+β³
=1+(1+β²)=2+β²≡β²
σ(α²)={σ(α)}²=(β³)²=β⁶
σ(1+α²)=σ(1)+σ(α²)=1+β⁶
=1+(β+β²)=1+β+β²=β⁴
σ(α+α²)=σ(α)+σ(α²)=β³+β⁶
=β³+(β+β²)=β(β²+1+β)
=β・β⁴=β⁵
σ(1+α+α²)=σ(1)+σ(α)+σ(α²)
=1+β³+β⁶=1+(1+β²)+(β+β²)
=2+β+2β²≡β
よって、F₂(α)からF₂(β)への全単射である。
(ⅱ)σ(α)=β⁶の場合、
F₂(α)={0,1,α,1+α,α²,1+α²,α+α²,
1+α+α²}
σ(0)=0
σ(1)=1
σ(α)=β⁶
σ(1+α)=σ(1)+σ(α)=1+β⁶
=1+(β+β²)=1+β+β²=β⁴
σ(α²)={σ(α)}²=(β⁶)²=β^12=β⁵
σ(1+α²)=σ(1)+σ(α²)=1+β^12
=1+β⁵=1+(1+β)=2+β≡β
σ(α+α²)=σ(α)+σ(α²)=β⁶+β^12
=β⁶+β⁵=β⁵(β+1)=β⁵・β⁵=β^10
=β³
σ(1+α+α²)=σ(1)+σ(α)+σ(α²)
=1+β⁶+β^12=1+β⁶+β⁵
=1+(β+β²)+(1+β)=2+2β+β²
≡β²
よって、F₂(α)からF₂(β)への全単射である。
(ⅲ)σ(α)=β⁵の場合、
F₂(α)={0,1,α,1+α,α²,1+α²,α+α²,
1+α+α²}
σ(0)=0
σ(1)=1
σ(α)=β⁵
σ(1+α)=σ(1)+σ(α)=1+β⁵
=1+(1+β)=2+β≡β
σ(α²)={σ(α)}²=(β⁵)²=β^10=β³
σ(1+α²)=σ(1)+σ(α²)=1+β^10
=1+β³=1+(1+β²)=2+β²≡β²
σ(α+α²)=σ(α)+σ(α²)=β⁵+β^10
=β⁵+β³=β³(β²+1)=β³・β³=β⁶
σ(1+α+α²)=σ(1)+σ(α)+σ(α²)
=1+β⁵+β^10=1+(1+β)+β³
=2+β+β³≡β(1+β²)=β・β³=β⁴
よって、F₂(α)からF₂(β)への全単射である。
以上より、「αの像σ(α)をβ³,β⁶,β^12=β⁵のいずれに定めてもF₂(α)からF₂(β)の上への同型写像が与えられる」事が示された。
これだけでは面白くないので、素朴な疑問シリーズ。
今回、F₂[X]/(X³+X+1)とF₂[X]/(X³+X²+1)が同型という事だが、例6.6から、
X⁸-X=X(X-1)(X³+X+1)(X³+X²+1)で共にX⁸-Xの因子を使った剰余体だが、他の3次式でも同型になるのだろうか(元の個数は8個で同じだから)。
因みに、F₂係数の既約多項式は、
X,X+1、X²+X+1,X³+X²+1,X³+X+1で全部なので、3次の既約多項式はこの2つしかないので、試せない。
というのは、以前に、
定理6.8
同じ個数の元からなる2つの有限体は同型である。
証明
q=p^r(r≧1)とし、KとK'を元の個数がqである体とする。体Kの乗法群をK*とし、巡回群K*の生成元をαとする。このとき、前に例6.3でみたようにK=Fp(α)である。f(X)をαのFp上の最小多項式とすれば、定理6.3より
Fp[X]/(f(X))≃Fp(α)=K
αはf(X)の根でありX^q-Xの根でもあるがf(X)は既約多項式であるから、補題2によりX^q-Xはf(X)で割り切れる。一方、X^q-Xは体K'の中で1次式の積に分解する(定理6.6)からf(X)はK'に根α'を持つ。すると、f(X)はα'のFp上の最小多項式でもあるから、再び定理6.3より
Fp[X]/(f(X))≃Fp(α')
ゆえにK≃Fp(α')となるので、Fp(α')はq個の元をもつ。Fp(α')はK'の部分集合であり、それぞれの元の個数が一致してqであるからFp(α')=K'でなければならない。したがって、K≃K'となる。
「群・環・体 入門」新妻弘・木村哲三著より
>一方、X^q-Xは体K'の中で1次式の積に分解する(定理6.6)からf(X)はK'に根α'を持つ。
その前に「X^q-Xはf(X)で割り切れる」とあるので、X^q-X=f(X)Q(X)と置け、また、「X^q-Xは体K'の中で1次式の積に分解する」ので、X^q-X=X(X-1)(X-ζ)(X-ζ²)…(X-ζ^(q-2))と置ける。
∴f(X)Q(X)=X(X-1)(X-ζ)(X-ζ²)…(X-ζ^(q-2))(ζ,…,ζ^(p-2)∈K')
この右辺のどれかがα'で、f(α')Q(α')=0となるが、f(α')=0またはQ(α')=0である。
つまり、必ず「f(X)はK'に根α'を持つ」とは言えないのである。もちろん、f(α')=0の場合は上の続きで同型が言えるだろう。
しかし、それも本当に証明になっているのだろうか。その理由は「f(X)はα'のFp上の最小多項式でもあるから」と同じf(X)で議論しているが、例えば、例6.8。
例6.8
定理6.8により同じ個数の元からなる2つの有限体は同型であるが、この同型は一意に定まるものではないことを例示する。
F₂[X]/(X³+X+1)≃F₂[X]/(X³+X²+1)
同型の例である。
つまり、Q(α')=0の方で、Q(X)=X(X-1)g(X)と置くと、Q(α)=α(α-1)g(α)=0より、g(α)=0
このg(X)がX³+X²+1
f(X)がX³+X+1
に当たり、Q(α')=0の方を証明しなくてはいけないのではないだろうかという事。
(2025/2/25 12:06の投稿の列より)
と疑問があるからである。
でも、検索したらちゃんと証明されているのでOKである。
(13分ぐらいの所から。)
多分、係数がF₂より大きくなっても、
「今回、F₂[X]/(X³+X+1)とF₂[X]/(X³+X²+1)が同型という事だが、例6.6から、
X⁸-X=X(X-1)(X³+X+1)(X³+X²+1)で」
のように、他の3次式は存在しないような関係になるのだろう。そもそも定理6.6を読むと、1種類しかないように読めるので、同型なんてゆるい縛りはOKだろう。
定理6.6
Kをq個(q=p^r,r≧1)の元からなる体とすると、Kは多項式X^q-Xの互いに異なるq個の根で構成されている。したがって、X^q-XはK[X]の中で1次式の積に分解される。
「群・環・体 入門」新妻弘・木村哲三著より
という訳で、今回の素朴な疑問はOKである。
おまけ: