解説
>F₂={0,1}を2個の元からなる体ℤ/(2),F₂[X]をF₂上の多項式環とする。X²+X+1はF₂[X]の既約多項式であるから、剰余環
K=F₂[X]/(X²+X+1)
は体である(定理4.11を参照)。
念のため、ℤ/(2)はℤ₂(2で割った余りの集合)と同じ事。
また、「X²+X+1はF₂[X]の既約多項式である」は、ちゃんと確認した方が良い。
例えば、Ⅹ²+1はF₂[X]では可約である。∵Ⅹ²+1=X²+0X+1≡X²+2X+1=(X+1)²だから。
また、X²+X+1が既約多項式ならばF₂[X]/(X²+X+1)が体は定理4.11は、何回も同じような事をやったので、省略。(定理4.11を見れば自明。)
>σ:F₂→F₂[X]/(X²+X+1)
a→|a=aの剰余類
という準同型写像は単射となる(定理3.4)。F₂の元のσによる像を同じ記号で書くことにする。この意味でKはF₂を部分体として含んでいる。
単射になる事は定理3.4より自明。
定理3.4
体Kから環Rへの準同型写像f:K→Rは単射である。
「群・環・体 入門」新妻弘・木村哲三著より
ただし、ここでσが準同型写像である事の確認をしておく。それは定理3.1より。
定理3.1
Iを環Rのイデアルとする。Rの元aに対して、aを含むR/Iの剰余類|aを対応させると、これは環Rから剰余類R/Iへの環の全準同型写像である。
π:R→R/I
a→|a
「群・環・体 入門」新妻弘・木村哲三著より
また、「F₂の元のσによる像を同じ記号で書くことにする。この意味でKはF₂を部分体として含んでいる」は、F₂={0,1}はF₂[X]/(X²+X+1)の定数部分でそのまま(単射で)写像されるので、(そのまま)F₂[X]/(X²+X+1)の部分体になるという事である。
>さらに、Kの元|XはF₂[X]の多項式の根である。それは、
(|X)²+|X+1=|(X²+X+1)=|0
となるからである。
念のため、|(X²+X+1)=|0は、F₂[X]/(X²+X+1)がX²+X+1で割った余りの集合だからである。X²+X+1をX²+X+1で割った余りは0だから。
また、(|X)²+|X+1=|(X²+X+1)は、定理2.3より。
定理2.3
Iを環Rのイデアルとすると、Iを法とする剰余類全体の集合R/Iに対して、加法と乗法を次のように定義することができる。すなわちRの元a,bに対して、
|a+|b=|(a+b)
|a・|b=|(a・b)
と定義することができる。これらの演算に関して、剰余類の全体R/Iは環になる。
「群・環・体 入門」新妻弘・木村哲三著より
>|Xをαと書くことにすればK=F₂[X]/(X²+X+1)の任意の元は、F₂[X]の多項式によりf(α)と表現される。f(X)をX²+X+1で割れば
f(X)=(X²+X+1)g(X)+aX+b(g(X)∈F₂[X],a,b∈F₂)
となるから、結局、
f(α)=aα+b(a,b∈F₂)
である。
「|Xをαと書くことにすればK=F₂[X]/(X²+X+1)の任意の元は、F₂[X]の多項式によりf(α)と表現される。」で一旦区切って、実際「f(X)をX²+X+1で割れば
f(X)=(X²+X+1)g(X)+aX+b(g(X)∈F₂[X],a,b∈F₂)
となるから、結局、
f(α)=aα+b(a,b∈F₂)
である」
と書いた方が分かり易い。因みに、前半は、定理6.3(2)を見ても良い。
定理6.3
体の拡大K⊂LでαはLの元とするとき、次のことが成り立つ。
(1)αがK上超越的であれば
σ:K[X]→K[α]⊂L(X→α)
は環同型写像であり、K[α]の商体K(α)はK上の有理関数体K(X)と同型である。
(2)αがK上代数的であり、αのK上の最小多項式をf(X)とすると、写像
K[X]/(f(X))→K[α]⊂L(|X→α)
は同型写像であり、K[α]は体になる。すなわち、K[α]=K(α)となる。
「群・環・体 入門」新妻弘・木村哲三著より
>f(α)=aα+b(a,b∈F₂)
である。
a=0 のときは f(α)=0 または 1,
a=1 のときは f(α)=α または α+1
a,bはF₂の元なので、0か1の場合しかないので、a,bが2通りずつで2×2=4通り。
>以上によりK={0,1,α,α²=α+1}である。αとα+1はX²+X+1の2つの根となるので、KはF₂の拡大体であって X²+X+1=0 の2根を含んでいる。
ところで、上に「(|X)²+|X+1=|(X²+X+1)=|0」と「|Xをαと書くことにすれば」とあるので、α²+α+1=0である。
∴α+1=-α²=α²(F₂では1=-1だから。)
よって、K={0,1,α,α²}
ここで、まず、定理6.1が確認できる。
定理6.1
有限体Kの0以外の元からなる乗法群K*は巡回群である。
「群・環・体 入門」新妻弘・木村哲三著より
次に、p.240の文章も確認出来る。
「有限体の元の個数は常に素数のベキである。」
「群・環・体 入門」新妻弘・木村哲三著より
今回のKの個数は4で2²だからである。しかし、有理整数環ℤの剰余環ℤ/(p)が体になるのはpが素数の場合だけなのに、多項式環の剰余類の場合はちゃんと確認出来るのは嬉しい。(参考書には書いてないので、悩みました。恥ずかしながら、3回目(3周目)でようやく気付きました。)
「このpを体Kの標数という。標数がpである体Kは体ℤ/(p)と同型な体を部分体として含むことになる。この体はKに含まれる最小の体であり、Kの素体と呼ばれる。」
「群・環・体 入門」新妻弘・木村哲三著より
今回のK={0,1,α,α²}ではF₂={0,1}が素体という事ですね。つまり、標数が2。
>αとα+1はX²+X+1の2つの根となる
αがX²+X+1の根となるのは自明なので、α+1の方を確認すると、(α+1)²+α+1+1=α²+3α+3≡α²+α+1でOK。
因みに、直接X²+X+1をX-αで割っても良い。商がX+(α+1),余りがα²+α+1=0となり、X=-(α+1)≡α+1でOK。
>KはF₂の拡大体であって X²+X+1=0 の2根を含んでいる。
p.189の例3.5を挙げよう。
例3.5
有理数体ℚ上の1変数の多項式環ℚ[X]において、多項式X²-2によって生成されたイデアル(X²-2)による剰余環ℚ[X]/(X²-2)と体ℚ[√2]は環として同型である。
「群・環・体 入門」新妻弘・木村哲三著より
ℚ[√2]はℚの拡大体で、既約多項式X²-2=0の根±√2を含んでいる。
おまけ: