解説
問題
数体K上の行列空間M(n,n,K)の部分空間Wが、条件
“A∈M(n,n,K),X∈W ならば AX,XA∈W”
をみたす。このとき W={O} または W=M(n,n,K) なることを示せ。
解
W≠{O}とするとWにOでない行列Aが属する。
A=(aij)1≦i,j≦n,apq≠0とする。
行列単位 Eqp∈M(n,n,K) だから仮定により W∋EqpAEqp=apqEqp
Wは部分空間だから W∋(1/a^pq)apqEqp=Eqp
再び仮定により W∋EiqEqpEpj=Eij,1≦i,j≦n すべての行列単位EijがWに属し、{Eij}1≦i,j≦nはM(n,n,K)の生成元だから M(n,n,K)⊆W
逆の包含関係は明らかだから M(n,n,K)=W
「演習詳解 線型代数」有馬哲・浅枝陽共著より
>問題
数体K上の行列空間M(n,n,K)の部分空間Wが、条件
“A∈M(n,n,K),X∈W ならば AX,XA∈W”
をみたす。このとき W={O} または W=M(n,n,K) なることを示せ。
問題の意味は、n行n列の行列全体から任意の行列Aを選んで、また、n行n列の行列全体の部分空間Wから任意の行列Xを選んで掛け合わせたら、その部分空間Wの中に収まりました。その場合は、その部分空間は零行列(零元)のみか、または部分が全体である場合しかありませんよという定理。(念のため、掛け合わせるのは逆も含めて両方じゃないとダメ。)
何となくは当然である事が分かるだろう。部分集合の全ての元と全体集合の全ての元を掛け合わせて、その全てが部分集合の中に入ってしまうなんて、部分集合が0のみか部分集合が全体集合と一致している場合しかあり得なそうという事。
念のため、当然普通の部分集合ではダメで部分空間とか群(体)とかじゃないとダメという事。
>W≠{O}とするとWにOでない行列Aが属する。
W={O}の場合は成り立つ事が自明である。そこで、W≠{O}の場合を考えるという事。
>行列単位 Eqp∈M(n,n,K) だから仮定により W∋EqpAEqp=apqEqp
行列単位の定義
(p,q)成分のみが1で他の成分がすべて0である行列を行列単位と言い、Epqで表わす。
「線型代数入門」有馬哲著より
当然、Eqp∈M(n,n,K)であり、仮定とは、
“A∈M(n,n,K),X∈W ならば AX,XA∈W”
である。
まず、AX∈Wより、EqpA∈Wである。(Eqp∈M(n,n,K),A∈Wだから。)
次に、EqpA=Yと置くと、
Y∈W,Eqp∈M(n,n,K)で、仮定のXA∈Wより、YEqp∈Wである。
つまり、EqpAEqp∈Wである。
ところで、EqpAEqp=apqEqpは自分で確認して貰った方が良いだろう。
因みに、EqpAでAのq行全体がp行に移り、他の成分は全て0になり、
AEqpでAのp列全体がq列に移り、他の成分は全て0になる。
よって、EqpAEqpでAのp行q列成分だけがq行p列に残り、他の成分は全て0になる。
よって、EqpAEqp=apqEqpとなり、上のEqpAEqp∈Wと合わせて、W∋apqEqp
>Wは部分空間だから W∋(1/a^pq)apqEqp=Eqp
部分空間だからスカラー倍について閉じていて、Wは数体K上の部分空間で体は四則演算について閉じているので、逆元を含む。
よって、1/a^pq∈Wだから、apqEqpの(1/a^pq)倍について閉じていて、
W∋(1/a^pq)apqEqp=Eqp
という事。
>再び仮定により W∋EiqEqpEpj=Eij,1≦i,j≦n
仮定は、
“A∈M(n,n,K),X∈W ならば AX,XA∈W”で、
上よりEqp∈W,Eqp∈M(n,n,K) だから、EiqEqp∈Wで、これとEpj∈M(n,n,K) より、EiqEqpEpj∈Wという事。
また、EiqEqpEpj=Eijは実験しても良いが、
「行列単位の間の積はEpqErs=δqrEpsとなる。」
「演習詳解 線型代数」有馬哲・浅枝陽共著より
「δij=1(i=j),δij=0(i≠j)と定め、δijをクロネッカー記号と言う。」
「演習詳解 線型代数」有馬哲・浅枝陽共著より
より、EiqEqp=δqqEip=1・Eip=Eip
∴EiqEqpEpj=EipEpj=δppEij
=1・Eij=Eij
∴EiqEqpEpj=Eij
これとEiqEqpEpj∈Wより、
Eij∈W(1≦i,j≦n)
>すべての行列単位EijがWに属し、{Eij}1≦i,j≦nはM(n,n,K)の生成元だから M(n,n,K)⊆W
ところで、先の「行列単位」の定義、
定義
(p,q)成分のみが1で他の成分がすべて0である行列を行列単位と言い、Epqで表わす。
「線型代数入門」有馬哲著より
の続きに、
「どんな行列A=(apq)1≦p≦m,1≦q≦n∈M(m,n,K)も行列単位の線型結合
A=∑(1≦p≦m,1≦q≦n)apqEpq,apq∈K
として表される。すなわち、数体K上の線型空間M(m,n,K)は集合
{Epq}1≦p≦m,1≦q≦n
により生成される。
「線型代数入門」有馬哲著より
とあるので、
M(m,n,K)⊆{Epq}1≦p≦m,1≦q≦n
という事である。
よって、上ではM(n,n,K)⊆Wという事。
>逆の包含関係は明らかだから M(n,n,K)=W
問題文に「行列空間M(n,n,K)の部分空間W」とあるので、W⊆M(n,n,K)
これとM(n,n,K)⊆Wより、M(n,n,K)=Wという事。
おまけ: