解説
>まずΦn(x)の任意の根ζの最小多項式をf(x)とし、Φn(x)=f(x)g(x)とおきます。ガウスの補題(問題2-10)よりf(x),g(x)を整数係数多項式とします。
示したい事は「Φn(x)は有理数係数多項式として既約である」事なので、Φn(x)=f(x)g(x)と置いて矛盾か、g(x)=1を示せば良いという事。(f(x)が最小多項式で既約多項式だから。)
また、
問題 2-10c
次の命題(ガウスの補題)を証明せよ。
「定数でない整数係数多項式f(x)が定数でない2つの整数係数多項式の積で表されないならば、f(x)は有理数係数として既約である。」
この命題は逆も成り立ち(下の補足)、つまり、Φn(x)は有理数係数多項式として既約であるならば整数係数としても既約なので、「f(x),g(x)を整数係数多項式とし」ても良いという事。(単多項式とは、最大次数の項の係数が1の多項式。)
「最高次の項の係数が1に等しい多項式を単多項式,あるいはモニック多項式といいます。」
「本質を学ぶ ガロワ理論 最短コース」梶原健著より
補足
定理5.6
一意分解整域Rの商体をKとし、f(X)∈R[X]とする。
f(X)がK[X]において多項式の積に分解すれば、R[X]においても同じ次数の多項式に分解する。すなわち、f(X)はK[X]で可約であれば、R[X]においても可約である。
また、この逆も成り立つ。
「群・環・体 入門」新妻弘・木村哲三著より
「f(X)はK[X]で可約であれば、R[X]においても可約」の対偶を取ると、「R[X]において既約であれば、f(X)はK[X]で既約」である。
また、この逆も成り立つので、f(X)はK[X]で既約であれば、R[X]においても既約であるという事。
(今回はR[X]が整数係数多項式でK[X]が有理数係数多項式を表わしている事は言うまでもない。)
>このときnと互いに素な素数pに対して、ζ^pもf(x)の根であることを示します。つまりf(ζ^p)=0を示します。
何故こんな事をするのかと言うと、これを示せばf(x)=Φn(x)が言えるからである。どういう事かと言うと、Φn(x)の根はζ^kでkがnと互いに素なもので、f(x)の根とΦn(x)の根が全て一致するからである。ただし、この段階ではkが素数とは限らないので、見通しとしても一致すると言えない(一致すると言っておきながら)。あくまでも方針を示したという事。
(念のため、kが素数になるという訳ではない。)
>よってζ^pはΦn(x)の根なので、ζはΦn(x^p)の根になります。
「ζ^pはΦn(x)の根」より、Φn(ζ^p)=0
よって、x=ζはΦn(x^p)の根という事。
>ζはΦn(x^p)の根になります。したがってζの最小多項式f(x)はΦn(x^p)=f(x^p)g(x^p)を割り切ります。
上より「まずΦn(x)の任意の根ζの最小多項式をf(x)とし、Φn(x)=f(x)g(x)とおきます。」
から、ζはf(x)とΦn(x^p)の共通の根でf(x)は最小多項式だからΦn(x^p)を割り切るという事。
最小多項式による整除性
αを根に持つA係数多項式g(x)はαのA最小多項式f(x)で割り切れます。
「本質を学ぶ ガロワ理論 最短コース」梶原健著より
>f(x)は既約なので、f(x^p)またはg(x^p)を割り切ります。
f(x)が既約でなかったらf(x)がΦn(x^p)=f(x^p)g(x^p)を割り切ったとしても、f(x^p)またはg(x^p)を割り切るとは限らない。これは素数と合成数に置き換えて考えれば分かると思う。
逆に、既約だったらどちらか一方を割り切る。
命題1.3(既約多項式の整除性)
既約多項式f(x)がg(x)h(x)を割り切るとき、f(x)はg(x)またはh(x)を割り切る。
「本質を学ぶ ガロワ理論 最短コース」梶原健著より
>もしf(x)がg(x^p)を割り切るとすると、係数をpで割った余りで考えて矛盾が生じます。詳しく説明します。まず多項式の係数をpで割った余りにして考えます。
今までは整数係数だったが、ここで係数をℤ/pℤ(ℤp)で考える。変えても問題ない理由がないが、まぁ、暗黙の了解なのだろう。(整数と有理数では「ガウスの補題」を持ち出すのに、ここでは何の理由もなしですか。まぁ、等式の両辺に同じものをかけても矛盾しないような話なのだろう。)
>以上によりf(x)はf(x^p)を割り切り、f(ζ^p)=0となります。
「以上」の部分はじっくり読めば分かるので省略。ようやく、初めの目的に達したという事である。
上より、「このときnと互いに素な素数pに対して、ζ^pもf(x)の根であることを示します。つまりf(ζ^p)=0を示します。」。
>いまf(x)の根を1つ固定しζと表します。ζは1の原始n乗根であり、Φn(x)の他の根はζ^k(kはnと互いに素な正整数)と表されます。k=p₁p₂…ps(p₁,…,psは素数)とおきます。上の議論から、ζ^p₁はf(x)の根になります。
kがnと互いに素だからp₁もnと互いに素である。よって、「nと互いに素な素数pに対し、f(ζ^p)=0」から、f(ζ^p₁)=0
よって、「ζ^p₁はf(x)の根になります」という事。
>次にζ^p₁p₂=(ζ^p₁)^p₂も(ζ^p₁がf(x)の根になることから)f(x)の根になります。
ζ^p₁p₂=(ζ^p₁)^p₂のζ^p₁が、f(ζ^p)=0のζになるという事。p₂もnと互いに素だから成り立つという事。
>同様の議論を繰り返すと、ζ^k=ζ^p₁…psがf(x)の根になります。
つまり、ζ^p₁,…,ζ^p₁…psのs個がf(x)の根になるという事。因みに、p₁=1で素数ではないが、そこは暗黙の了解だろう。(「k=p₁p₂…ps(p₁,…,psは素数)とおきます。」とあるが。)
補足
(1)Φn(x)の根
Φn(x)の根はすべてζ^k(kはnと互いに素)の形(ζのべき)になります。以下、Φn(x)の次数をsとおきます。このsは1,2,…,n-1のうち、nと互いに素な整数の個数になります。
「本質を学ぶ ガロワ理論 最短コース」梶原健著より
>よってΦn(x)の任意の根がf(x)の根となりΦn(x)=f(x)です。
初めに、矛盾かg(x)=1か示すと書いたが、後者である。
上より、「示したい事は「Φn(x)は有理数係数多項式として既約である」事なので、Φn(x)=f(x)g(x)と置いて矛盾か、g(x)=1を示せば良いという事。」。
おまけ: