解説の続き
■1の原始n乗根の性質(5つ)
(4)根の入れ換えと根の式
Φn(x)の根α₁,…,αsの式において、ζをζ^k(kはnと互いに素)に置き換えると、もとの式の表示によらず、置き換えた後の値は必ず一定になります。すなわち、このような式を
f(α₁,…,αs)=g(α₁,…,αs)
とおくと、ζをζ^kにしてα₁,…,αsがβ₁,…,βsに入れ換わるとき
f(β₁,…,βs)=g(β₁,…,βs)
をみたします。
証明の前に、この性質を具体的に説明します。例えばn=3を考えます。
Φ3(x)の根ω(=ζ₃),ω²をf(x,y)=xy²+1,g(x,y)=-x²yにそれぞれ代入すると、2式の値は等しくなります:
f(ω,ω²)=ω(ω²)²+1=ω⁵+1=ω²+1=-ω
g(ω,ω²)=-ω²ω²=-ω⁴=-ω
このときf(ω²,ω)=g(ω²,ω)が成り立ちます:
f(ω²,ω)=ω²(ω²)+1=ω⁴+1=ω+1=-ω²
g(ω²,ω)=-(ω²)²ω=-ω⁵=-ω²
ここでωとω²の交換はωをω²に変えると得られます(∵(ω²)²=ω)。
これが(4)の性質です。ほかの例は問題7-5を参照してください。
それではこの性質を証明します。これらの式を多項式の商
f(α₁,…,αs)=f₁(ζ)/f₂(ζ),
g(α₁,…,αs)=g₁(ζ)/g₂(ζ)
(f₁,f₂,g₁,g₂は多項式)
と表すと、f(α₁,…,αs)=g(α₁,…,αs)より
f₁(ζ)g₂(ζ)-f₂(ζ)g₁(ζ)=0
となります。これからf₁(x)g₂(x)-f₂(x)g₁(x)はΦn(x)で割り切れます。なぜならばΦn(x)で割った余りr(x)もr(ζ)=0をみたすので、(3)よりr(x)=0しかありません。
よってf₁(x)g₂(x)-f₂(x)g₁(x)=Φn(x)p(x)となります。ここでx=ζ^kを代入すると、
f₁(ζ^k)g₂(ζ^k)-f₂(ζ^k)g₁(ζ^k)=Φn(ζ^k)p(ζ^k)=0
となります(f₂(ζ^k)≠0,g₂(ζ^k)≠0は153ページ21行目を参照)。したがってf(β₁,…,βs)=g(β₁,…,βs)が従います。
「本質を学ぶ ガロワ理論 最短コース」梶原健著より
>それではこの性質を証明します。これらの式を多項式の商
f(α₁,…,αs)=f₁(ζ)/f₂(ζ),
g(α₁,…,αs)=g₁(ζ)/g₂(ζ)
(f₁,f₂,g₁,g₂は多項式)
と表す
α₁~αsはそれぞれ、nと互いに素なkでζ^kで表され(kの値によってs個それぞれ違う)、それらの根の式の次数はnやsを越えるが(越えても)、「1の原始n乗根の性質(2)」より、s-1次以下になる。
■1の原始n乗根の性質(5つ)
(2)Φn(x)の根の式
Φn(x)の根の式は、s-1次以下のζの多項式で表せます。(注:(1)よりsはΦn(x)の次数)
たとえ、s-1次以下にならなくても右辺のように適当なζの多項式の分数で表せる事は自明だろう。
>f(α₁,…,αs)=g(α₁,…,αs)より
f₁(ζ)g₂(ζ)-f₂(ζ)g₁(ζ)=0
となります。
条件より、f(α₁,…,αs)=g(α₁,…,αs)とすると、
f₁(ζ)/f₂(ζ)=g₁(ζ)/g₂(ζ)より、
f₁(ζ)g₂(ζ)=f₂(ζ)g₁(ζ)
∴f₁(ζ)g₂(ζ)-f₂(ζ)g₁(ζ)=0
という事。
>これからf₁(x)g₂(x)-f₂(x)g₁(x)はΦn(x)で割り切れます。なぜならばΦn(x)で割った余りr(x)もr(ζ)=0をみたすので、(3)よりr(x)=0しかありません。
f₁(x)g₂(x)-f₂(x)g₁(x)=Φn(x)Q(x)+r(x)と置いて、x=ζを代入すると、
f₁(ζ)g₂(ζ)-f₂(ζ)g₁(ζ)=Φn(ζ)Q(ζ)+r(ζ)
ところで、ζはΦn(x)の根よりΦn(ζ)=0
∴f₁(ζ)g₂(ζ)-f₂(ζ)g₁(ζ)=r(ζ)
また、上よりf₁(ζ)g₂(ζ)-f₂(ζ)g₁(ζ)=0だったので、r(ζ)=0
ここで、r(x)≠0とすると、r(x)はΦn(x)で割った余りなので、次数はΦn(x)より小さく、Φn(x)は既約多項式よりr(x)とΦn(x)は互いに素。
よって、「群・環・体 入門」新妻弘・木村哲三著の定理4.8より、
r(x)p(x)+Φn(x)q(x)=1
をみたすp(x),q(x)が存在する。
定理4.8
体K上の2つの多項式f(X)とg(X)の最大公約数がd(X)ならば
d(X)=f(X)ξ(X)+g(X)η(X)
となるような多項式ξ(X),η(X)がK[X]の中に存在する。
この式にx=ζを代入すると、
r(ζ)p(ζ)+Φn(ζ)q(ζ)=1
ところが、Φn(ζ)=0,r(ζ)=0より、0=1となり矛盾。∴r(x)=0
よって、f₁(x)g₂(x)-f₂(x)g₁(x)=Φn(x)Q(x)となり、f₁(x)g₂(x)-f₂(x)g₁(x)はΦn(x)で割り切れるという事。
>よってf₁(x)g₂(x)-f₂(x)g₁(x)=Φn(x)p(x)となります。ここでx=ζ^kを代入すると、
f₁(ζ^k)g₂(ζ^k)-f₂(ζ^k)g₁(ζ^k)=Φn(ζ^k)p(ζ^k)=0
となります。
したがってf(β₁,…,βs)=g(β₁,…,βs)が従います。
割り切れるので、
f₁(x)g₂(x)-f₂(x)g₁(x)=Φn(x)p(x)
と置ける。
これにx=ζ^kを代入すると、
f₁(ζ^k)g₂(ζ^k)-f₂(ζ^k)g₁(ζ^k)=Φn(ζ^k)p(ζ^k)
ところで、ζ^kもΦn(x)の根より、Φn(ζ^k)=0
∴f₁(ζ^k)g₂(ζ^k)-f₂(ζ^k)g₁(ζ^k)=0
∴f₁(ζ^k)g₂(ζ^k)=f₂(ζ^k)g₁(ζ^k)
∴f₁(ζ^k)/f₂(ζ^k)=g₁(ζ^k)/g₂(ζ^k)
∴f(β₁,…,βs)=g(β₁,…,βs)
補足1
f(α₁,…,αs)=f₁(ζ)/f₂(ζ),
g(α₁,…,αs)=g₁(ζ)/g₂(ζ)
補足2
「ζをζ^kにしてα₁,…,αsがβ₁,…,βsに入れ換わる」
>(f₂(ζ^k)≠0,g₂(ζ^k)≠0は153ページ21行目を参照)
要は、上の、
f₁(ζ^k)/f₂(ζ^k)=g₁(ζ^k)/g₂(ζ^k)
の分母が0にならない事を証明すれば良い。
証明
f₂(ζ^k)=0と仮定すると、Φn(ζ^k)=0とΦn(x)は既約多項式よりf₂(x)はΦn(x)で割り切れる。その理由は、
最小多項式による整除性
αを根に持つA係数多項式g(x)はαのA最小多項式f(x)で割り切れます。
「本質を学ぶ ガロワ理論 最短コース」梶原健著p.129より
最小多項式となる条件
αを根に持つA係数多項式f(x)について、次の①,②は同値です。
①f(x)はαのA最小多項式である。
②f(x)は既約である。
「本質を学ぶ ガロワ理論 最短コース」梶原健著p.130より
つまり、同じ根を持つ2つの多項式は片方が既約多項式ならばそれで割り切れるという事だからである。
よって、f₂(x)=Φn(x)Q(x)と置け、
これにx=ζを代入すると、
f₂(ζ)=Φn(ζ)Q(ζ)=0・Q(ζ)=0
ところで、f(α₁,…,αs)=f₁(ζ)/f₂(ζ)より、
f₂(ζ)≠0に矛盾する。
よって、背理法により、f₂(ζ^k)≠0である。
g₂(ζ^k)≠0の方も同じ。
おまけ:
「13 人がその友のために自分の命を捨てること、これよりも大きな愛はない。
14 あなたがたにわたしが命じることを行うならば、あなたがたはわたしの友である。
15 わたしはもう、あなたがたを僕とは呼ばない。僕は主人のしていることを知らないからである。わたしはあなたがたを友と呼んだ。わたしの父から聞いたことを皆、あなたがたに知らせたからである。
16 あなたがたがわたしを選んだのではない。わたしがあなたがたを選んだのである。そして、あなたがたを立てた。それは、あなたがたが行って実をむすび、その実がいつまでも残るためであり、また、あなたがたがわたしの名によって父に求めるものはなんでも、父が与えて下さるためである。」
「ヨハネによる福音書」第15章13節~16節(口語訳)