解説の続き
演習問題9
体K上の2変数の多項式環K[X,Y]において、(X)と(Y)は素イデアルであり、(X,Y)は極大イデアルであることを示せ。
(証明)
(1)(X),(Y)は素イデアルであることを示す。
(Y)が素イデアルであることを示せば、(X)が素イデアルであることも同様である。
多項式環K[X,Y]の任意の多項式をf(X,Y)とすると、
f(X,Y)=f₁(X)+Yf₂(X,Y),f₁(X)∈K[X],f₂(X,Y)∈K[X,Y]
と一意的に表される。イデアル(Y)を用いて合同式で表現すると
f(X,Y)≡f₁(X)(mod (Y))
である。そこで、f(X,Y)に対してf₁(X)を対応させる写像をΦとする。
Φ:K[X,Y]→K[X](f(X,Y)→Φ(f(X,Y)=f₁(X))
もう1つの多項式をg(X,Y)として、同様に表現する。
g(X,Y)=g₁(X)+Yg₂(X,Y),g₁(Ⅹ)∈K[X],g₂(X,Y)∈K[X,Y]
すなわち、g(X,Y)≡g₁(X)(mod (Y))であるとする。このとき、(Y)はイデアルであるから、定理2.1より
f(X,Y)+g(X,Y)≡f₁(X)+f₂(X)(mod (Y))
f(X,Y)・g(X,Y)≡f₁(X)・f₂(X)(mod (Y))
このことより、
Φ(f(X,Y)+g(X,Y))=f₁(X)+f₂(X)
=Φ(f(X,Y))+Φ(g(X,Y))
Φ(f(X,Y)・g(X,Y))=f₁(X)・f₂(X)
=Φ(f(X,Y))・Φ(g(X,Y))
Φ(1)=1
したがって、ΦはK[X,Y]からK[X]への準同型写像である。また、K[X]の任意の元f(X)はK[X,Y]の元と考えられ、Φ(f(X))=f(X)であるので、Φは全射である。次に、Φの核を調べる。
f(X,Y)∈kerΦ⇔Φ(f(X,Y))=0⇔f₁(X)=0
⇔f(X,Y)≡0(mod (Y))⇔f(X,Y)∈(Y)
ゆえに、kerΦ=(Y)=YK[X,Y]であるから、準同型定理3.5によって
K[X,Y]/YK[X,Y]=K[X,Y]/kerΦ≃K[X]
Kは体であるから、K[X]は整域(定理4.2)である。したがって、定理2.6によって(Y)は素イデアルである。
(2)(Ⅹ,Y)がK[X,Y]の極大イデアルであることを示す。
多項式環K[X,Y]の任意の多項式をf(X,Y)とすると、
f(X,Y)=f(0,0)+f₃(X,Y),f(0,0)∈K,f₃(X,Y)∈(X,Y)
と一意的に表される。イデアル(X,Y)を用いて合同式で表現すると
f(X,Y)≡f(0,0)(mod (X,Y))
である。そこで、f(X,Y)に対してf(0,0)を対応させる写像をΦとする。
Φ:K[X,Y]→K(f(Ⅹ,Y)→Φ(f(X,Y))=f(0,0))
もう1つの多項式をg(X,Y)として
g(X,Y)=g(0,0)+g₃(X,Y),g(0,0)∈K,g₃(X,Y)∈(X,Y)
と表す。すなわち、g(X,Y)≡g(0,0)(mod (X,Y))であるとする。簡単のためf(0,0)=a∈K,g(0,0)=b∈Kとおく。このとき、(X,Y)はイデアルであるから
f(X,Y)+g(X,Y)≡a+b(mod (X,Y))
f(X,Y)・g(X,Y)≡a・b(mod (X,Y))
このことより、
Φ(f(X,Y)+g(X,Y))=a+b
=Φ(f(X,Y))+Φ(g(X,Y))
Φ(f(X,Y)・g(X,Y))=a・b
=Φ(f(X,Y))・Φ(g(X,Y))
Φ(1)=1
したがって、ΦはK[X,Y]からKへの準同型写像である。また、Kの任意の元aはK[X,Y]の元と考えられ、Φ(a)=aであるので、Φは全射である。
次に、Φの核を調べる。
f(X,Y)∈kerΦ⇔Φ(f(X,Y))=0⇔f(0,0)=0
⇔f(X,Y)≡0(mod (X,Y))⇔f(X,Y)∈(X,Y)
∴kerΦ=(X,Y)=XK[X,Y]+YK[X,Y]
よって、準同型定理3.5によって
K[X,Y]/(X,Y)=K[X,Y]/kerΦ≃K
Kは体であるから、定理2.6によって(X,Y)はK[X,Y]の極大イデアルである。
「演習 群・環・体 入門」新妻弘著より
定理3.5(準同型定理)
R,R'を環,f:R→R'をRからR'への準同型写像であるとする。写像
|f:R/kerf→R'
|a→f(a)
は剰余環R/kerfから環R'への単準同型写像である。すなわち、
R/kerf≃f(R)
また、|fはf=|f◦πを満たす。
定理2.1
環Rの部分集合Iが加法に関して部分群であるとする。このとき、上で定義した同値関係について、次の条件(5)と(6)は同値である。
(5)a≡b(modI),c≡d(modI)⇒a・c≡b・d(modI)
(6)(ⅰ)r∈R,a∈I⇒r・a∈I
(ⅱ)r∈R,a∈I⇒a・r∈I
定理4.2
Rが整域であればR[X]も整域である。
定理2.6
Pを可換環Rのイデアルとするとき、次が成り立つ。
(1)Pは素イデアルである。⇔R/Pは整域。
(2)Pは極大イデアルである。⇔R/Pは体。
(3)Pが極大イデアルならば、Pは素イデアルである。
>多項式環K[X,Y]の任意の多項式をf(X,Y)とすると、
f(X,Y)=f(0,0)+f₃(X,Y),f(0,0)∈K,f₃(X,Y)∈(X,Y)
と一意的に表される。
f(0,0)は定数でf₃(X,Y)はXとYの多項式。この2つの和に分けて考えるという事である。
>また、Kの任意の元aはK[X,Y]の元と考えられ、Φ(a)=aであるので、Φは全射である。
Kの任意の元aは、
「f(X,Y)に対してf(0,0)を対応させる写像をΦとする。
Φ:K[X,Y]→K(f(Ⅹ,Y)→Φ(f(X,Y))=f(0,0))」
写像先の任意の元なので、f(0,0)=aである。よって、写像元もX=Y=0とすると、f(X,Y)=aとなり、Φ(f(X,Y))=f(0,0)は、Φ(a)=aとなる。よって、Φは全射であるという事。
>次に、Φの核を調べる。
f(X,Y)∈kerΦ⇔Φ(f(X,Y))=0⇔f(0,0)=0
⇔f(X,Y)≡0(mod (X,Y))⇔f(X,Y)∈(X,Y)
∴kerΦ=(X,Y)=XK[X,Y]+YK[X,Y]
よって、準同型定理3.5によって
K[X,Y]/(X,Y)=K[X,Y]/kerΦ≃K
Kは体であるから、定理2.6によって(X,Y)はK[X,Y]の極大イデアルである。
「f(0,0)=0⇔f(X,Y)≡0(mod (X,Y))」は、上より、
「f(X,Y)≡f(0,0)(mod (X,Y))」だから。
「f(X,Y)≡0(mod (X,Y))⇔f(X,Y)∈(X,Y)」は、前回もやったが、
f(X,Y)≡0(mod (X,Y))
⇔f(X,Y)+ (X,Y)=0+ (X,Y)
⇔f(X,Y)+ (X,Y)=(X,Y)
ここで、定理4.1の系を使うと、
⇔f(X,Y)∈(X,Y)
定理4.1の系
Gを群,HをGの部分群とする。このとき、Gの任意の元aについて次の(1),(2),(3)は同値である。
(1)a∈H(2)aH=H(3)Ha=H
これは群での話なので、演算を好きに変えて良い。よって、加法にすると、
a+H=H⇔a∈H
よって、上の式も
f(X,Y)+(X,Y)=(X,Y)
⇔f(X,Y)∈(X,Y)
という事。
∴f(X,Y)≡0(mod (X,Y))
⇔f(X,Y)∈(X,Y)
結局、f(X,Y)∈kerΦ⇔f(X,Y)∈(X,Y)となり、
kerΦ=(X,Y)
よって、Φ:K[X,Y]→Kに対して、準同型定理3.5を使うと、
定理3.5(準同型定理)
R,R'を環,f:R→R'をRからR'への準同型写像であるとする。写像
|f:R/kerf→R'
|a→f(a)
は剰余環R/kerfから環R'への単準同型写像である。すなわち、
R/kerf≃f(R)
K[X,Y]/kerΦ≃K これにkerΦ=(X,Y)を代入すると、K[X,Y]/(X,Y)≃K
ところで、条件よりKは体なので、
それと同型なK[X,Y]/(X,Y)も体である。
また、定理2.6(2)より、
定理2.6
Pを可換環Rのイデアルとするとき、次が成り立つ。
(1)Pは素イデアルである。⇔R/Pは整域。
(2)Pは極大イデアルである。⇔R/Pは体。
(3)Pが極大イデアルならば、Pは素イデアルである。
(X,Y)はK[X,Y]の極大イデアルである。
おまけ: