解説の続き
命題 10.2(1つの入れ換えで生成される多項式の群)
pを素数とし、1の原始p乗根ζは定数であるとする。多項式f(x)の群Gfが1つの入れ換えσのべきσ^i(i=0,1,・・・,p-1 全部でp個)からなるとする。このとき、「f(x)の根がx^p-aの根の式で表される」ような定数aが存在する。とくにf(x)の根の式はすべてaのべき根の式で表される。
この命題を証明しましょう。f(x)の原始元を1つとり、例えばβと表し、Gfを生成する入れ換えσにより、
γi=β+σ(β)ζ^i+σ²(β)ζ^2i+…+σ^(p-1)(β)ζ^(p-1)i(i=0,1,・・・,p-1)
とおきます。これはラグランジュやガウスがべき根で解を求める際に利用した方法です。σ(γi)を計算すると
σ(γi)=σ(β)+σ²(β)ζ^i+σ³(β)ζ^2i+…+σ^p(β)ζ^(p-1)i
=ζ^-i(σ(β)ζ^i+σ²(β)ζ^2i+σ³(β)ζ^3i+…+σ^p(β)ζ^pi)
=ζ^-i・γi(∵σ^p(β)=β,ζ^p=1)
となります。したがってγi^pはσで不変です:
σ(γi^p)=(γiζ^-i)^p=γi^pζ^-ip=γi^p
よってγi^p(i=0,1,・・・,p-1)は定数です。もしγi≠0かつi≠0ならばσ^k(γi)=γiζ^-ik≠γi(k=1,・・・,p-1)です。ゆえにγiを不変にする入れ換えは恒等入れ換えしかなく、ガロワ対応より、γiの式全体はf(x)の根の式全体に一致します。
したがって命題の証明を完成させるには、γ₁,…,γp-1のなかに0でないものがあれば十分です。
1+ζ+ζ²+…+ζ^(p-1)=0より
γ₀+γ₁+…+γp-1=pβ
∴γ₁+…+γp-1=pβ-γ₀
となります。右辺のpβ-γ₀は定数ではありません。なぜならばβは定数でなく、γ₀は定数(σ(γ₀)=γ₀)だからです。とくにpβ-γ₀≠0なのでγ₁,…,γp-1の中に0でないものが存在します。以上で証明は終わりです。
「本質を学ぶ ガロワ理論 最短コース」梶原健著より
>したがって命題の証明を完成させるには、γ₁,…,γp-1のなかに0でないものがあれば十分です。
上より、「よってγi^p(i=0,1,・・・,p-1)は定数です」とあり、前回の終わりから「つまり、γiはf(x)の根という事である」となったので、γiを変数xで表すと、x^p=a(定数)となり、xはf(x)の根となる。
つまり、「f(x)の根がx^p-aの根の式で表される」ような定数aが存在するという事である。(問題文から)
そして、その条件は「もしγi≠0かつi≠0」だったので、「γ₁,…,γp-1のなかに0でないものがあれば十分」という事になる。(1つでもあれば、γi^p=aとなりOKという事。)
ついでに、前回の「この時点ではγiはf(x)の根と分かっていないのに定理9.1(2)を適用しても良いのだろうか」にも答えておこう。別に順番を逆にすれば良いだけである。つまり、γiがf(x)の根だと示した後でγi^pが定数である事を言えば問題ない。
>1+ζ+ζ²+…+ζ^(p-1)=0より
γ₀+γ₁+…+γp-1=pβ
γi=β+σ(β)ζ^i+σ²(β)ζ^2i+…+σ^(p-1)(β)ζ^(p-1)i(i=0,1,・・・,p-1)
これにi=0~p-1まで代入して総和を取ると、
γ₀=β+σ(β)+σ²(β)+…+σ^(p-1)(β)
γ₁=β+σ(β)ζ¹+σ²(β)ζ²+…+σ^(p-1)(β)ζ^(p-1)
γ₂=β+σ(β)ζ²+σ²(β)ζ⁴+…+σ^(p-1)(β)ζ^2(p-1)
・
・
・
γp-1=β+σ(β)ζ^(p-1)+σ²(β)ζ^2(p-1)+…+σ^(p-1)(β)ζ^(p-1)²
∴γ₀+γ₁+…+γp-1
=pβ+σ(β){1+ζ+ζ²+…+ζ^(p-1)}
+σ²(β){1+ζ²+ζ⁴+…+ζ^2(p-1)}
+・・・
+σ^(p-1)(β){1+ζ^(p-1)+ζ^2(p-1)+…+ζ^(p-1)²}———☆
また、1+ζ^(p-1)+ζ^2(p-1)+…+ζ^(p-1)²は、初項1,公比ζ^(p-1)の等比数列の和より、等比数列の和の公式より、
={1-(ζ^(p-1))^p}/{1-ζ^(p-1)}
={1-ζ^p(p-1)}/{1-ζ^(p-1)}
ところで、ζは1の原始p乗根よりζ^p=1
よって、1-ζ^p(p-1)=1-(ζ^p)^(p-1)
=1-1^(p-1)=1-1=0
∴1+ζ^(p-1)+ζ^2(p-1)+…+ζ^(p-1)²=0
よって、☆の式の右辺は初めの項以外は全て0である。
∴γ₀+γ₁+…+γp-1=pβ
因みに、「1+ζ+ζ²+…+ζ^(p-1)=0より
γ₀+γ₁+…+γp-1=pβ」この書き方だと1+ζ+ζ²+…+ζ^(p-1)を等比数列の和の公式でζ^p=1を求める事になる。わざわざこの形にしたのは何か勘違いしたのかな?(念のため、解答の表現なんて本人の自由である。)
>右辺のpβ-γ₀は定数ではありません。なぜならばβは定数でなく、γ₀は定数(σ(γ₀)=γ₀)だからです。
βはf(x)の原始元で1つではないからである。また、上より「σ(γi)=ζ^-i・γi」でこれにi=0を代入すると、σ(γ₀)=γ₀だからγは定数。
>とくにpβ-γ₀≠0なのでγ₁,…,γp-1の中に0でないものが存在します。
先の「γ₀+γ₁+…+γp-1=pβ」から、
γ₁+…+γp-1=pβ-γ₀で「pβ-γ₀は定数ではありません」ので、pβ-γ₀≠0とすると、γ₀+γ₁+…+γp-1≠0
よって、「γ₁,…,γp-1の中に0でないものが存在します」という事。
(γ₁,…,γp-1が全て0の場合はγ₀+γ₁+…+γp-1=0だから。そうじゃない場合は少なくとも1個は0じゃないから。)
おまけ:
https://jisin.jp/koushitsu/2179930/