問題 9-5b
多項式f(x)の群をGfとする。f(x)の根の式βが、Gfの根の入れ換え(すべて)により、異なる数β₁=β,・・・,βsになったとする。このとき
g(x)=(x-β₁)(x-β₂)・・・(x-βs)はβiの最小多項式であることを示せ。よってβiの最小多項式は重根を持たない。
またs=degg(x)は、βを不変にする入れ換え全体のなすGfの部分群Hの指数(G:H)に等しいことを示せ。
解答
βを不変にする入れ換え全体のなすGfの部分群をHとする。まずg(x)の係数はGfの入れ換えで不変なので、定数であることに注意する。またβ₁,・・・,βsはHの右傍系と1対1に対応するので、sはHの指数(G:H)に等しい。
βの最小多項式をh(x)とおく。定義よりh(β)=0である。この式にGfの根の入れ換えを適用するとh(βj)=0(j=1,2,・・・,s)が得られる。よってh(x)はβ₁,・・・,βsをすべて根に持つのでg(x)で割り切れる。h(x)はβの最小多項式なので、定義よりg(x)を割り切る。よってg(x)=h(x)である。
「本質を学ぶ ガロワ理論 最短コース」梶原健著より
解説の続き
>またβ₁,・・・,βsはHの右傍系と1対1に対応するので、sはHの指数(G:H)に等しい。
定理9.3(ガロワ対応(正規性))
多項式の群Gfの部分群Hについて、次は同値である。
(1)Hは、ある多項式g(x)のすべての根による式全体を不変にする部分群である。
(2)HはGfの正規部分群である。すなわちGfの任意の入れ換えσに対して、
Hσ=σH
である(Hに関する左傍系と右傍系は一致する)。
さらに、この対応においてg(x)の群Ggは商群Gf/Hと同型である。
「本質を学ぶ ガロワ理論 最短コース」梶原健著より
上より「βを不変にする入れ換え全体のなすGfの部分群をHとする」より、Hはある多項式g(x)が対応して、Gg≅Gf/H となる。
このg(x)がg(x)=(x-β₁)(x-β₂)・・・(x-βs)である事を具体例で確認する。
つまり、同型の間には全単射が存在するので、「β₁,・・・,βsはHの右傍系と1対1に対応する」を確認出来るという訳である。
f(x)=x⁴-2とすると、
f(x)=(x²-√2)(x²+√2)
=(x-⁴√2)(x+⁴√2)(x-⁴√2ⅰ)(x+⁴√2ⅰ)より、x=±⁴√2,±⁴√2ⅰ
ここで、f(x)の根の式βを作る。
β=(⁴√2ⅰ)/(⁴√2)=iとすると、「Gfの根の入れ換え(すべて)」のGfが分からないので、とりあえず全ての根の入れ換えを行うと、
β₂=(⁴√2ⅰ)/(-⁴√2)=-i
β₃=(-⁴√2ⅰ)/(⁴√2)=-i
β₄=(⁴√2)/(⁴√2ⅰ)=1/i=-i
β⁵=(-⁴√2)/(⁴√2ⅰ)=-1/i=i
他にもあるが、±iに収まったとする。
よって、g(x)=(x-i)(x+i)=x²+1
ところで、問題9-1aより、一般に2次式の多項式の群はf(x)の根の入れ換えと恒等入れ換えの2つからなる群なので、|Gg|=2・・・➀である。
また、f(x)=x⁴-2の係数をiの式(2+3iなど有理数係数のiの式)としてもこの式は既約多項式である。何故なら、f(x)=(x-⁴√2)(x+⁴√2)(x-⁴√2ⅰ)(x+⁴√2ⅰ)のどの2つの積を展開しても係数に√2が残り、有理数係数のiの式に収まらないので、結局全部展開しないと有理数係数のiの式にならないからである。
また、⁴√2は、有理数係数のiの式を係数としたf(x)=x⁴-2の原始元になる。
何故なら、この式にx=±⁴√2ⅰを代入すると、f(±⁴√2ⅰ)=(±⁴√2ⅰ)⁴-2
=i⁴(±⁴√2)⁴-2となり、iの式を係数としたf(x)=x⁴-2の根はx=±⁴√2だけで、これらは⁴√2で表せるからである。ただし、f(x)=x⁴-2の根は±⁴√2,±⁴√2ⅰの4個である。
よって、iの式を不変にするGfの部分群Hの元の個数は4個である。(p.153から「f(x)の原始元をβとし、βを根に持つ既約多項式g(x)を作り、その他の根に入れ換えて得られるf(x)の根の入れ換えが多項式の群Gf」だから。)
∴|H|=4・・・②
また、問題8-6bより、f(x)=x⁴-2の原始元βの最小多項式は、x⁸+28x⁴+2500より、8次式なので、|Gf|=8・・・③
話を元に戻して、
「上より「βを不変にする入れ換え全体のなすGfの部分群をHとする」より、Hはある多項式g(x)が対応して、Gg≅Gf/H となる。」より、
|Gg|=|Gf|/|H|
これに➀,②,③を代入すると、
2=8/4
で合う。よって、
「このg(x)がg(x)=(x-β₁)(x-β₂)・・・(x-βs)である事を具体例で確認する。
つまり、同型の間には全単射が存在するので、「β₁,・・・,βsはHの右傍系と1対1に対応する」を確認出来るという訳である。」
が確認された。
念のため、決してGg={β₁,・・・,βs}という訳ではない。Ggはg(x)の元の入れ換えの群であり、βjはf(x)の根の式である。
因みに、
問題 9-5b
多項式f(x)の群をGfとする。f(x)の根の式βが、Gfの根の入れ換え(すべて)により、異なる数β₁=β,・・・,βsになったとする。このとき
g(x)=(x-β₁)(x-β₂)・・・(x-βs)はβiの最小多項式であることを示せ。よってβiの最小多項式は重根を持たない。
またs=degg(x)は、βを不変にする入れ換え全体のなすGfの部分群Hの指数(G:H)に等しいことを示せ。
このf(x)が同じでもβの取り方によって当然g(x)の次数も変わる。
例えば、f(x)=x³-2として、f(x)の根をα₁=³√2,α₂=³√2ω,α₃=³√2ω²とする。
ここで、β=α₁-α₂と置くと、(上より)g(x)=x⁶+108
また、β=α₃/α₂=ωとして、ωの最小多項式を作ると、g(x)=x²+x+1
(全ての入れ換えでg(x)=(x-ω)(x-ω²)=x²-(ω+ω²)x+ω³=x²+x+1と求めても良い。(β=α₃/α₂の全ての入れ換えは、ω,ω²,1/ω,1/ω²で、結局、ωとω²になる。))
よって、g(x)の次数が異なる。これが対応する部分群の違いという事である。(ガロア対応))
おまけ: