定理9.1(基本定理)
重根を持たないd次多項式f(x)に対して、その根α₁,・・・,αdの入れ換えのなす群G_fであって、次の性質をみたすものがただ1つ存在する:
(1)α₁,・・・,αdの2つの式が同じ値を定めるならば、G_fの各元で根を入れ換えても2式の値は等しい。すなわちg(α₁,・・・,αd)=h(α₁,・・・,αd)ならば、G_fの元でαi₁,・・・,αidと入れ換えてもg(αi₁,・・・,αid)=h(αi₁,・・・,αid)が成り立つ。
(2)α₁,・・・,αdの式に対して、その値は、G_fのどの元で根を入れ換えても変わらないとき、定数である。
この群G_fを多項式f(x)の群という。
多項式の群の一意性について
合成に閉じた集合を考えることが一意性では重要です。個々の元ではなく、その集まりに一意性があります。
一意性を証明します。ほかに(1),(2)をみたすG'があったとすると、G_fとG'で生成される群G''(⊃G_f)も(1),(2)をみたします。
ところが根の入れ換えは、(1)より原始元βの入れ換えで一意的に定まるので、g(x)の根の個数n=degg(x)以下の入れ換えしかG''は含みません。G_fはちょうどn個の入れ換えからなるので、G''=G_fです。したがってG'⊂G_fとなります。
一方、G'がn個より少ない入れ換えからなるとします。βをG'で入れ換えたものをβ₁,…,βm(m<n)と改めて番号付けします。このときh(x)=(x-β₁)…(x-βm)は、G'のみたす(2)の性質より定数係数多項式であり、かつh(β)=0をみたします。よってg(x)がh(x)を割り切ります。しかしこれはdegh(x)<degg(x)と矛盾します。ゆえにG'はn個の入れ換えからなり、G'=G_fとなります。以上で定理9.1の証明は終わりです。
多項式f(x)の群G_fの一意性を利用して、G_fは次のように言い換えられます:
G_f=(基本定理の(1)をみたすf(x)の根の入れ換え全体)・・・(*)
実際、上のような入れ換えをσとすると、σとG_fで生成される群G'は定理9.1(1)と(2)をみたします(上の議論と同様です)。したがって多項式の群の一意性よりG'=G_fとなり、σはG_fに入ります。
「本質を学ぶ ガロワ理論 最短コース」梶原健著より
解説
>一意性を証明します。ほかに(1),(2)をみたすG'があったとすると、G_fとG'で生成される群G''(⊃G_f)も(1),(2)をみたします。
究極の所、G_fの単位元とG'で生成した群G''はG'と等しく、G'も(1),(2)を満たすのでG''は(1),(2)を満たし、また、G_fは入れ換えの群で(1),(2)を満たすならG_f全体ととG'で生成される群G''も(1),(2)を満たすと考えるのは自然だろう。(証明は必要ないらしい。)
>ところが根の入れ換えは、(1)より原始元βの入れ換えで一意的に定まるので、g(x)の根の個数n=degg(x)以下の入れ換えしかG''は含みません。G_fはちょうどn個の入れ換えからなるので、G''=G_fです。したがってG'⊂G_fとなります。
(1)の証明の時に、多項式の群G_fを「βをg(x)の根に入れ換えて得られるf(x)の根の入れ換え」からなる集合としたので、「根の入れ換えは、原始元βの入れ換えで一意的に定まる」という訳である。
(実際は、p.152のβ→γのとき(α₁ α₂ α₃)→(α₁ α₃ α₂)などの6種類を見た方が良い。)
また、g(x)はf(x)の原始元βを根に持つ既約多項式で、ここでn次とする(前ページでg(x)のすべての根β₁=β,β₂,・・・,βnとある)と、G''は定理9.1の(1)と(2)を満たすので、最大でもG_fと同じでn個の元(f(x)の根の入れ換え)しか含まない。
ところで、上より、G_f⊂G''なので、
|G_f|≦|G''| ∴n=|G_f|≦|G''|≦n
よって、挟み打ちの原理より、G_fとG''の元の個数はn個で等しく、
G_f⊂G''より、G_f=G''である。
ところで、G'⊂G''(G_fとG'でG''が生成されるから) ∴G'⊂G_f
>一方、G'がn個より少ない入れ換えからなるとします。
上よりG'⊂G_fで、まず=の可能性を消して考えるという事である。(結果的には背理法)
>βをG'で入れ換えたものをβ₁,…,βm(m<n)と改めて番号付けします。
f(x)=x³-2の例では、β=α₁-α₂,γ=α₁-α₃,δ=α₂-α₃と置くと、αi(i=1,2,3) の入れ換えがG'を意味し、γ,δがβjを意味している。
>このときh(x)=(x-β₁)…(x-βm)は、G'のみたす(2)の性質より定数係数多項式であり、かつh(β)=0をみたします。
これは間違っていませんか。(2)の性質はf(x)の根の式に対してですが、この式はg(x)の根とx(g(x)のxとは関係ない)の式ですよね。まぁ、根本的な原理は同じなのでしょうけど。
自分流で示しますね。
h(x)=(x-β₁)…(x-βm)のβ₁~βmを入れ換えても式の値は変わらないので、h(x)は対称式である。よって、β₁~βmの基本対称式で表せる。よって、m次方程式の解と係数の関係より、h(x)は定数係数多項式である。
また、「βをG'で入れ換えたものをβ₁,…,βm(m<n)」で、G'は群なので単位元で入れ換えたものが必ずある。つまり、β₁,…,βmのどれかはβである。∴h(β)=0
>h(β)=0をみたします。よってg(x)がh(x)を割り切ります。
g(x)はβを根に持つ既約多項式で、g(x)とh(x)は同じ根を持っているから。
最小多項式による整除性
αを根に持つA係数多項式g(x)はαのA最小多項式f(x)で割り切れます。
「本質を学ぶ ガロワ理論 最短コース」梶原健著より
念のため、既約多項式は最小多項式の定数倍。
>よってg(x)がh(x)を割り切ります。しかしこれはdegh(x)<degg(x)と矛盾します。
g(x)がh(x)を割り切るという事は、h(x)の次数の方が大きいという事で、
degg(x)≦degh(x)
また、「β₁,…,βm(m<n)と改めて番号付けします。このときh(x)=(x-β₁)…(x-βm)」より、h(x)の次数はg(x)の次数nより小さい。∴degh(x)<degg(x)
よって、矛盾。
>実際、上のような入れ換えをσとすると、σとG_fで生成される群G'は定理9.1(1)と(2)をみたします(上の議論と同様です)。したがって多項式の群の一意性よりG'=G_fとなり、σはG_fに入ります。
「σとG_fで生成される群G'」より、
σG_f=G'
また、多項式の群の一意性より、G'=G_f
∴σG_f=G_f
よって、定理4.1の系より、σ∈G_f
定理4.1の系
Gを群,HをGの部分群とする。このとき、Gの任意の元aについて次の(1),(2),(3)は同値である。
(1)a∈H(2)aH=H(3)Ha=H
「群・環・体 入門」新妻弘・木村哲三著より
おまけ: