解説の続き
■原始元の存在(証明)
上の例で原始元を具体的に構成しました。ガロワは一般に重根を持たないf(x)に対して、その原始元が存在することを証明しました。ここでは煩雑にならないように、f(x)=x^3-2の例においてガロワの理論を紹介します。一般の場合も同様です。
まず有理数p,q,rをうまく選んで、pα1+qα2+rα3の値が、どのようにα1,α2,α3を入れ換えてもすべて異なるようにします。このように選ぶことは可能です。実際
pαi₁+qαi₂+rαi₃=pαj₁+qαj₂+rαj₃
をp,q,rの方程式とみると15個の方程式が得られます。(p,q,r)として、3次元空間から有限個の平面を除いた残りの点の座標(有理数)を選べば、どの方程式でも解にならないp,q,rになります。
このように選んだp,q,rに対して、β=pα1+qα2+rα3はf(x)の原始元になります。その理由を説明します。α1を固定する根の入れ換えによって次の積g(x)を作ります:
g(x)=(x-pα1-qα2-rα3)(x-pα1-qα3-rα2)
この式はα2,α3の対称式なのでf(x)/(x-α1)の係数の式になります。
例えばf(x)=f(x)-f(α1)=x^3-α1^3=(x-α1)(x^2+α1x+α1^2)
であり、α2+α3=-α1,α2α3=α1^2です。そこでg(x)を、xとα1の式とみなして、改めてg(x,α1)とおきます:
g(x,α1)=(x-pα1)^2+(q+r)α1(x-pα1)+α1^2(q^2+r^2-qr)
=x^2+α1x(-2p+q+r)+α1^2(p^2+q^2+r^2-pq-qr-rp)
ここでα1を変数yにした2変数有理数係数多項式g(x,y)を利用します:
g(x,y)=x^2+xy(-2p+q+r)+y^2(p^2+q^2+r^2-pq-qr-rp)
g(x,α2)やg(x,α3)は、g(x,α1)の構成においてα1をα2やα3に置き換えて構成したものと同じです:
g(x,α2)=x^2+α2x(-2p+q+r)+α2^2(p^2+q^2+r^2-pq-qr-rp)
=(x-pα2-qα1-rα3)(x-pα2-qα3-rα1)
g(x,α3)=x^2+α3x(-2p+q+r)+α3^2(p^2+q^2+r^2-pq-qr-rp)
=(x-pα3-qα1-rα2)(x-pα3-qα2-rα1)
このg(x,y)にx=βを代入した式(βの式を係数とするyの多項式)
g(β,y)=β^2+βy(-2p+q+r)+y^2(p^2+q^2+r^2-pq-qr-rp)
は定義よりy=α1を根に持ちます。またp,q,rの選び方からg(β,α2)≠0,g(β,α3)≠0となります。したがってg(β,y)とf(y)の共通根y=α1のみです。よってg(β,y)とf(y)の最大公約数は(定数倍を除いて)y-α1となります。
一方、g(β,y)とf(y)の最大公約式をユークリッドの互除法で計算すると(βの式の加減乗除の結果)、y-u(β)(u(β)は有理数係数のβの式)が得られます。よってα1=u(β)となり、α1はβの式で表せます。α2やα3についても同様です。以上のことから、βがf(x)の原始元であることがわかります。」
「本質を学ぶ ガロワ理論 最短コース」梶原健著より
>次の積g(x)を作ります:
g(x)=(x-pα1-qα2-rα3)(x-pα1-qα3-rα2)
この式はα2,α3の対称式なのでf(x)/(x-α1)の係数の式になります。
g(x)のα2とα3を入れ換えても式の値は変わらないので、g(x)はα2,α3についての対称式。
また、条件より、f(x)=(x-α1)(x-α2)(x-α3)
よって、f(x)/(x-α1)=(x-α2)(x-α3)
=x^2-(α2+α3)x+α2α3
よって、右辺の係数はα2,α3の基本対称式なので、α2,α3の対称式を表せる。(定理3.1)
よって、g(x)の係数は、「f(x)/(x-α1)の係数の式になります」という事。
定理3.1(対称式の基本定理)
n変数対称式f(x1,・・・,xn)は基本対称式s1,・・・,snの多項式として一意的に表される。
「本質を学ぶ ガロワ理論 最短コース」梶原健著より
>例えばf(x)=f(x)-f(α1)=x^3-α1^3=(x-α1)(x^2+α1x+α1^2)
であり、α2+α3=-α1,α2α3=α1^2です。そこでg(x)を、xとα1の式とみなして、改めてg(x,α1)とおきます:
f(x)=x^3-2 また、f(x)=0の3つの解がα1,α2,α3より、f(α1)=α1^3-2=0
∴f(x)=f(x)-0=f(x)-f(α1)
=x^3-2-(α1^3-2)=x^3-α1^3
=(x-α1)(x^2+α1x+α1^2)
また、3次方程式の解と係数の関係より、
α1+α2+α3=0,α1α2+α2α3+α3α1=0 ∴α2+α3=-α1———①
また、α2α3=-(α1α2+α3α1)
=-α1(α2+α3)———②
①を②に代入すると、
α2α3=α1^2
または、x^2+α1x+α1^2が(x-α2)(x-α3)と一致するはずだと考えると、
(x-α2)(x-α3)=x^2-(α2+α3)x+α2α3で、α1=-(α2+α3),α1^2=α2α3と分かる。(著者の意図はこちらかな。)
>そこでg(x)を、xとα1の式とみなして、改めてg(x,α1)とおきます:
g(x,α1)=(x-pα1)^2+(q+r)α1(x-pα1)+α1^2(q^2+r^2-qr)
=x^2+α1x(-2p+q+r)+α1^2(p^2+q^2+r^2-pq-qr-rp)
上から、
g(x)=(x-pα1-qα2-rα3)(x-pα1-qα3-rα2)
={x-pα1-(qα2+rα3)}{x-pα1-(qα3+rα2)}
=(x-pα1)^2-(qα2+rα3+qα3+rα2)(x-pα1)+(qα2+rα3)(qα3+rα2)
=(x-pα1)^2-(q+r)(α2+α3)(x-pα1)+q^2α2α3+qrα2^2+qrα3^2+r^2α2α3
=(x-pα1)^2-(q+r)(α2+α3)(x-pα1)+(q^2+r^2)α2α3+qr(α2^2+α3^2)
これにα2+α3=-α1,α2α3=α1^2を代入すると、
=(x-pα1)^2+(q+r)α1(x-pα1)+(q^2+r^2)α1^2+qr(α2^2+α3^2)———☆
また、α2+α3=-α1の両辺を2乗すると、
(α2+α3)^2=α1^2 ∴α2^2+α3^2=α1^2-2α2α3
これにα2α3=α1^2を代入すると、
α2^2+α3^2=-α1^2
これを☆に代入すると、
g(x)=(x-pα1)^2+(q+r)α1(x-pα1)+(q^2+r^2)α1^2+qr(-α1^2)
=(x-pα1)^2+(q+r)α1(x-pα1)+α1^2(q^2+r^2-qr)
=x^2-2pα1x+p^2α1^2+(q+r)α1x-p(q+r)α1^2+α1^2(q^2+r^2-qr)
=x^2+α1x(-2p+q+r)+α1^2(p^2+q^2+r^2-pq-qr-rp)
あとは読めば分かるので省略。ただし、そっちの方が理論的で面白い。上のは計算確認だけ。
おまけ:
https://www.nicovideo.jp/watch/nm6860191
https://npn.co.jp/article/detail/36345252