解説
>例3.5
有理数体ℚ上の1変数の多項式環ℚ[Ⅹ]において、多項式Ⅹ^2-2によって生成されたイデアル(Ⅹ^2-2)による剰余環ℚ[Ⅹ]/(Ⅹ^2-2)と体ℚ[√2]は環として同型である。すなわち、
ℚ[Ⅹ]/(Ⅹ^2-2)≃ℚ[√2]
イデアル(Ⅹ^2-2)とは、(Ⅹ^2-2)ℚ[Ⅹ]という事。つまり、イメージ的にはⅩ^2-2の倍数というか、これに例えば3X^3+2X^2+2X+1などをかけた式の集合。
剰余環ℚ[Ⅹ]/(Ⅹ^2-2)は、イメージ的には3X^3+2X^2+2X+1などをX^2-2で割った余りの集合。つまり、1次式か0次式(0以外の定数)の集合である。(念のため、2次式で割った余りだから。)
「剰余環ℚ[Ⅹ]/(Ⅹ^2-2)と体ℚ[√2]は環として同型である」とは、ℚ[√2]はa+b√2(a,b∈ℚ)で、また、ℚ[Ⅹ]/(Ⅹ^2-2)が上よりa+bXとなるので、同型になりそうだと分かるだろう。あとは、これを証明する訳である。
>σ:ℚ[Ⅹ]→ℚ[√2]
f(X)→f(√2)
によって定義される写像σ(f(X))=f(√2)は代入の原理(後出定理4.4)によって環の準同型写像になる。
なぜ、こんな写像を作るのかというと、準同型定理を使うためである。
コツは、ℚ[Ⅹ]/(Ⅹ^2-2)≃ℚ[√2]を証明したいのだったら、上(左)どうしのσ:ℚ[Ⅹ]→ℚ[√2]という写像を作り、kerσを求め左辺をそれで割るような形にすれば良い。(ℚ[Ⅹ]/kerσ≃ℚ[√2]が示せるという事。)ただし、全射という事を他で示さなければならない。
定理3.5(準同型定理)
RとR'を環,f:R→R'をRからR'への準同型写像であるとする。写像
|f:R/kerf→R'
|a → f(a)
は剰余環R/kerfから環R'への単準同型写像である。すなわち、
R/kerf≃f(R)
また、|fはf=|f◦πを満たす。
因みに、R/kerf→R'の場合は全射とは限らないが、R/kerf→f(R)の場合は全射なので、
R/kerf≃f(R)となる。(準同型写像かつ全単射だと同型写像になる。)
厳密には、fが全射だと|fも全射になるからである。
また、「写像σ(f(X))=f(√2)は代入の原理(後出定理4.4)によって環の準同型写像になる」は準同型定理を使うためには準同型写像である事が必要だからである。また、定理4.4の注意(2)を読めば自明だろう。(代入する作業が写像Φ)
>次にkerσを考えよう。
(X^2-2)f(X)∈(X^2-2)ℚ[X]とすると
σ((X^2-2)f(X))=(√2^2-2)f(√2)=0
∴(X^2-2)ℚ[X]⊂kerσ
上で「kerσを求め左辺をそれで割るような形にすれば良い」と書いたが、そのkerσを求める訳である。そこで、結果から考えるとℚ[Ⅹ]/(Ⅹ^2-2)≃ℚ[√2]と準同型定理から(Ⅹ^2-2)(=(X^2-2)ℚ[X])がkerσになるはずである。
よって、(X^2-2)ℚ[X]から任意の元を選んで、まずは(X^2-2)ℚ[X]⊂kerσを示す。
∀(X^2-2)f(X)∈(X^2-2)ℚ[X]に対して、
σ((X^2-2)f(X))=(√2^2-2)f(√2)=0(σはXに√2を代入する写像だから。)
∴(X^2-2)f(X)∈kerσ
∴∀(X^2-2)f(X)∈(X^2-2)ℚ[X]⇒
(X^2-2)f(X)∈kerσ
∴(X^2-2)ℚ[X]⊂kerσ
>kerσ⊂(X^2-2)であること:
f(X)∈kerσとする。すなわちf(X)∈ℚ[X]でf(√2)=0と仮定する。後出の除法の定理4.5によって
f(X)=(X^2-2)q(X)+r(X),
r(X)=0 かまたは degr(X)<2
を満たすq(X),r(X)∈ℚ[X]が存在する。
ここで、r(X)≠0とするとdegr(X)<2だから
r(X)=a+bX(a,b∈ℚ)
と表される。X=√2を代入すると
f(√2)=0+r(√2)=a+b√2
仮定f(√2)=0よりa+b√2=0
ゆえにa=b=0,よってr(X)=0で、これは矛盾である。したがって、r(X)=0でなければならない。このとき、
f(X)=(X^2-2)q(X)∈(X^2-2)ℚ[X]
ゆえに、kerσ⊂(X^2-2)ℚ[X]である。
「kerσ⊂(X^2-2)であること」は、
kerσ⊂(X^2-2)ℚ[X]の事でこれを示せば、上で示した(X^2-2)ℚ[X]⊂kerσと合わせて、
kerσ=(X^2-2)ℚ[X]が示せるという訳である。
今、∀f(X)∈kerσに対して、σ(f(X))=0(kerの性質より)
また、σの定義よりσ(f(X))=f(√2)
∴f(√2)=0———①
ここで、f(X)の除法の定理4.5を使うと、
f(X)=(X^2-2)q(X)+r(X)———②
と置け、r(X)=0またはr(X)は1次式か0以外の定数となる。
今、r(X)≠0と仮定すると、
r(X)=a+bX(a,b∈ℚ)
と置ける。(X^2-2で割った余りだから。)
②にX=√2を代入すると
f(√2)=0+r(√2)=a+b√2———③
①,③より、a+b√2=0
a,bは有理数より、a=b=0
∴r(X)=0
よって、r(X)≠0に矛盾する。よって、背理法によりr(X)=0である。よって、②より、
f(X)=(X^2-2)q(X)∈(X^2-2)ℚ[X]
よって、∀f(X)∈kerσ⇒
f(X)∈(X^2-2)ℚ[X]
∴kerσ⊂(X^2-2)ℚ[X]
>以上より
kerσ=(X^2-2)ℚ[X]
を得る。そこで環の準同型定理3.5を使うと、
ℚ[X]/(X^2-2)≃ℚ[√2]
これはもう解説不要だろう。(分かる人にしか分からない話であるが。)
おまけ: