3.3 いろいろな不変式
対称式では、変数のどんな入れ換えでも変わらない式を考えました。では、変数の入れ換え全部ではなく、一部の入れ換えに制限したらどうでしょうか。例えば3変数x,y,zの式において、
「x,y,zをそれぞれy,z,xに入れ換えて変わらない式」
を調べます。この場合では
⊿=(x-y)(y-z)(z-x)(差積)
=xy^2+yz^2+zx^2-x^2y-y^2z-z^2x
が重要です。この式は対称式ではありませんが、上述の入れ換えで不変な式です。
この入れ換えで不変な式f(x,y,z)がさらにx,yの入れ換えでも不変ならば、f(x,y,z)は対称式です。実際、ほかの入れ換えは、x,y,zをy,z,xにする入れ換えとx,y,zをy,x,zにする入れ換えの合成(続けて行うこと)で表されるからです。
例えばf(x,y,z)がx,y,zをy,z,xに入れ換えて不変ならば、f(x,y,z)=f(y,z,x)・・・(*)をみたします。さらにx,yを交換して不変ならば、
f(x,y,z)=f(y,z,x)=f(x,z,y)
(*)
となり、f(x,y,z)はy,zの交換でも不変になります。等式=(*)は、(*)の等式において辺々のx,yを交換して得られます。ほかの入れ換えでも同様に不変になり、f(x,y,z)は対称式になります。
それではx,y,zをy,z,xに入れ換えても変わらない式を求めます。このような式をf(x,y,z)とおきます。またg,hを次のようにおきます:
g(x,y,z)=f(x,y,z)+f(y,x,z)
h(x,y,z)=f(x,y,z)-f(y,x,z)
はじめにgは対称式であることを示します。gは定義より、x,yの入れ換えで不変です。一方、x,y,zをy,z,xに入れ換えても不変です。実際f(x,y,z)=f(y,z,x)において、x,yを交換したものと、y,zを交換したものから
f(y,x,z)=f(x,z,y),
f(x,z,y)=f(z,y,x)が得られます。
よってf(y,x,z)=f(z,y,x)であり
g(y,z,x)=f(y,z,x)+f(z,y,x)
=f(x,y,z)+f(y,x,z)=g(x,y,z)
となります。ゆえにg(x,y,z)は対称式です。
一方、h(x,y,z)=f(x,y,z)-f(y,x,z)は⊿で割り切れます。実際hをxのみを変数とする多項式とみて、x-yで割ると
h(x,y,z)=(x-y)q(x,y,z)+r(y,z),r(y,z)はy,zのみの式と表されます。ここで辺々のxにyを代入すれば、
(左辺)=f(y,y,z)-f(y,y,z)=0
(右辺)=(y-y)q(y,y,z)+r(y,z)=r(y,z)
となります。よってr(y,z)=0であり、hはx-yで割り切れます。同様にyやzを変数とする多項式とみて、yにzを、zにxをそれぞれ代入するとhは0になります:
h(x,z,z)=f(x,z,z)-f(z,x,z)=0
(∵f(y,z,x)=f(x,y,z)においてxにzを、yにxを代入),
h(x,y,x)=f(x,y,x)-f(y,x,x)=0
(∵f(x,y,z)=f(y,z,x)においてzにxを代入)
したがってhは(y-x)(z-x)でも割り切れ、⊿で割り切れます(∵順にx-y,y-zで割った商について議論すればわかります)。そこでh(x,y,z)=h1(x,y,z)⊿とおきます。上のgと同様にh(x,y,z)=h(y,z,x)がわかります。また⊿(x,y,z)=⊿(y,z,x)と合わせて、
h1(x,y,z)⊿(x,y,z)=h1(y,z,x)⊿(y,z,x)より
h1(x,y,z)=h1(y,z,x)
となります。一方x,yの入れ換えで
⊿(y,x,z)=-⊿(x,y,z)
h(y,x,z)=-h(x,y,z)
なので、次のようにh1(x,y,z)=h1(y,x,z)が成り立ちます:
h(y,x,z)=-h(x,y,z)=-h1(x,y,z)⊿(x,y,z)
h(y,x,z)=h1(y,x,z)⊿(y,x,z)=-h1(y,x,z)⊿(x,y,z)
∴h1(x,y,z)=h1(y,x,z)
よってh1は対称式です。つまりh(x,y,z)は対称式に⊿を掛けたものです。
さて、(g(x,y,z)+h(x,y,z))/2より
f(x,y,z)=g(x,y,z)/2+{h1(x,y,z)/2}・⊿
となります。g(x,y,z)/2,h1(x,y,z)/2は対称式なので、
「x,y,zをy,z,xに入れ換えて不変な式f(x,y,z)は(対称式)+(対称式)・⊿の形」
です。逆に、(対称式)+(対称式)・⊿の形の式は、x,y,zをy,z,xに入れ換えて不変です。すべての入れ換えで不変な式(対称式)との違いは⊿の項です。例えばx,yの入れ換えで変化する分は、⊿の項から来ているのです。
本節では、変数の入れ換えを制限して、不変な式を求めました:
{すべての入れ換え}⊃{(x,y,z)を(y,z,x)に入れ換え}
{対称式}⊂{対称式と⊿の式}
この式は3次方程式の解の公式を調べる際に重要です。
「本質を学ぶ ガロワ理論 最短コース」梶原健著より
解説
>例えばf(x,y,z)がx,y,zをy,z,xに入れ換えて不変ならば、f(x,y,z)=f(y,z,x)・・・(*)をみたします。さらにx,yを交換して不変ならば、
f(x,y,z)=f(y,z,x)=f(x,z,y)
(*)
となり、f(x,y,z)はy,zの交換でも不変になります。等式=(*)は、(*)の等式において辺々のx,yを交換して得られます。ほかの入れ換えでも同様に不変になり、f(x,y,z)は対称式になります。
f(x,y,z)=f(y,z,x)=f(x,z,y)の初めの等号で(*)を行い、2番目の等号でxとyを入れ換えると、(最)左辺と(最)右辺のf(x,y,z)=f(x,z,y)でyとzを入れ換えても不変という事が言えるという事。
さらに、この右辺f(x,z,y)に(*)を行うと、=f(y,x,z)でまた今示したyとzを入れ換えても不変を行なうと、=f(z,x,y)より、f(x,y,z)=f(z,x,y)
よって、x→z,y→x,z→yを行なっても不変という事が言えた。(「ほかの入れ換えでも同様に不変になり、f(x,y,z)は対称式になります」の一例を示したという事。)
>gは定義より、x,yの入れ換えで不変です。
gの定義は「g(x,y,z)=f(x,y,z)+f(y,x,z)」で、xとyを入れ換えると、
g(y,x,z)=f(y,x,z)+f(x,y,z)
=f(x,y,z)+f(y,x,z)
よって、g(x,y,z)=g(y,x,z)という事。
>一方、x,y,zをy,z,xに入れ換えても不変です。実際f(x,y,z)=f(y,z,x)において、x,yを交換したものと、y,zを交換したものから
f(y,x,z)=f(x,z,y),
f(x,z,y)=f(z,y,x)が得られます。
よってf(y,x,z)=f(z,y,x)であり
g(y,z,x)=f(y,z,x)+f(z,y,x)
=f(x,y,z)+f(y,x,z)=g(x,y,z)
となります。ゆえにg(x,y,z)は対称式です。
一行目は、g(x,y,z)のxをy,yをz,zをxにしても不変という事。つまり、g(x,y,z)=g(y,z,x)を示す。
そこで、g(y,z,x)をgの定義で表すと、gの定義「g(x,y,z)=f(x,y,z)+f(y,x,z)」より、
g(y,z,x)=f(y,z,x)+f(z,y,x)———①
ところで、(*)より、f(x,y,z)=f(y,z,x) この両辺のxとyを入れ換えると、
f(y,x,z)=f(x,z,y)———②
また、yとzを入れ換えると、
f(x,z,y)=f(z,y,x)———③
②,③より、f(y,x,z)=f(z,y,x)———④
④を①に代入すると、
g(y,z,x)=f(y,z,x)+f(y,x,z)
=f(x,y,z)+f(y,x,z)((*)より)
=g(x,y,z)(gの定義より)
よって、g(y,z,x)=g(x,y,z)より、
g(x,y,z)=g(y,z,x)という事。
よって、上のg(x,y,z)=g(y,x,z)(xとyを入れ換えても不変)と合わせて、対称式という事が言えた。
念のため、②,③でfは対称式でもないのにxとy,yとzを入れ換えて不変を使っていると誤解してはいけない。あれらは、等式の両辺に同じ作用を施しているだけなので、何でも良い。
>一方、h(x,y,z)=f(x,y,z)-f(y,x,z)は⊿で割り切れます。実際hをxのみを変数とする多項式とみて、x-yで割ると
h(x,y,z)=(x-y)q(x,y,z)+r(y,z),r(y,z)はy,zのみの式と表されます。ここで辺々のxにyを代入すれば、
(左辺)=f(y,y,z)-f(y,y,z)=0
(右辺)=(y-y)q(y,y,z)+r(y,z)=r(y,z)
となります。よってr(y,z)=0であり、hはx-yで割り切れます。
⊿=(x-y)(y-z)(z-x)である。
ここで、h(x,y,z)をxだけの1変数の多項式と見ると、yとzは係数である。そして、x-yで割ると、xの1次式で割るので余りは定数である。よって、
「h(x,y,z)=(x-y)q(x,y,z)+r(y,z),r(y,z)はy,zのみの式と表されます」
「ここで辺々のxにyを代入すれば、
(左辺)=f(y,y,z)-f(y,y,z)=0
(右辺)=(y-y)q(y,y,z)+r(y,z)=r(y,z)
となります。よってr(y,z)=0であり、hはx-yで割り切れます。」
一応、hの定義を書くと、
「h(x,y,z)=f(x,y,z)-f(y,x,z)」
よって、xにyを代入すると上の通りになるだろう。あとは問題なし。
>上のgと同様にh(x,y,z)=h(y,z,x)がわかります。また⊿(x,y,z)=⊿(y,z,x)
gの時は①~④などを使って証明したが、gとhの定義の違いは+と-だけなので、同様にh(x,y,z)=h(y,z,x)が分かる。
また、⊿=(x-y)(y-z)(z-x)より、
⊿(x,y,z)=(x-y)(y-z)(z-x)
⊿(y,z,x)=(y-z)(z-x)(x-y)
∴⊿(x,y,z)=⊿(y,z,x)
>一方x,yの入れ換えで
⊿(y,x,z)=-⊿(x,y,z)
h(y,x,z)=-h(x,y,z)
⊿(y,x,z)=(y-x)(x-z)(z-y)
=-(x-y)(y-z)(z-x)=-⊿(x,y,z)
⊿(y,x,z)=-⊿(x,y,z)
hの定義は「h(x,y,z)=f(x,y,z)-f(y,x,z)」で、
h(y,x,z)=f(y,x,z)-f(x,y,z)
=-(f(x,y,z)-f(y,x,z))
=-h(x,y,z)
∴h(y,x,z)=-h(x,y,z)
おまけ: