間違い探しの解答
問題
φ(f(X))=f(α)によって定義される準同型写像φ:ℚ[X]→ℚ[α]に準同型定理3.5を適用すると、R=ℚ[X]/(f(X))≃ℚ[X]なる同型を得る(例4.4参照)。このとき、次の問に答えよ。
(1)1/α∈ℚ[α]に対応する剰余環(体)R=ℚ[X]/(f(X))の元は何か。
(2)x=|X∈Rは多項式f(X)の根であることを確かめよ。
(3)ℚ[X]は{1,α,…,α^(n-1)}を基底とする体ℚ上のn次元ベクトル空間であることを示せ。
証明
(1)f(X)=b0+b1X+…+bnX^n∈ℚ[X]とすると、f(α)=0であるから、b0+b1α+…+bnα^n=0となっている。ゆえに、
α[-{b1/b0+(b2/b0)α+…+(bn/b0)α^(n-1)}]=1
ゆえに、
α^-1=-b1/b0-(b2/b0)α-…-(bn/b0)α^(n-1)∈ℚ[α]
という表現をもつ。このとき、
g(X)=-b1/b0-(b2/b0)X-…-(bn/b0)X^(n-1)∈ℚ[X]
を考えれば、σ(g(X))=g(α)=1/αである。したがって、1/αに対応する剰余環(体)ℚ[X]/(f(X))の元は|g(X)=g(X)+(f(X))である。
(2)f(x)=f(|X)=b0+b1|X+…+bn(|X)^n=|(b0+b1X+…+bnX^n)=|f(X)=|0
(3)ℚ[α]は体ℚ上{1,α,…,α^(n-1)}の1次結合ですべて表される。また、これらはℚ上の1次独立である。何故ならば、{1,α,…,α^(n-1)}が1次従属とすると
a0+a1α+…+an-1α^(n-1)=0,ai∈ℚ,∃ai≠0
なる1次関係式が存在する。このとき、
h(X)=a0+a1X+…+an-1X^(n-1)∈ℚ[X]
とおけば、h(X)≠0である。h(X)はf(X)より次数の小さい多項式でh(α)=0を満たす。ゆえに、σ(h(X))=h(α)=0よりh(X)∈kerσ=(f(X)) したがって、ある多項式g(X)∈ℚ[X]が存在して、h(X)=f(X)g(X)と表される。すると、
n≦degf(X)+degg(X)=degh(X)=n-1
であるから矛盾である。以上によって、ℚ[X]は{1,α,…,α^(n-1)}を基底とする体ℚ上のn次元ベクトル空間である。
解答
>φ(f(X))=f(α)によって定義される準同型写像φ:ℚ[X]→ℚ[α]
このφはσの誤植ですね。証明の方を見れば分かりますね。ここで、2ヶ所です。
>(3)ℚ[X]は{1,α,…,α^(n-1)}を基底とする体ℚ上のn次元ベクトル空間であることを示せ。
ここは、ℚ[X]ではなくてℚ[α]ですね。これで3ケ所です。
>以上によって、ℚ[X]は{1,α,…,α^(n-1)}を基底とする体ℚ上のn次元ベクトル空間である。
ここも、同じでℚ[X]ではなくてℚ[α]ですね。これで4ヶ所で終わりです。
解説
>f(X)=b0+b1X+…+bnX^n∈ℚ[X]とすると、f(α)=0であるから、
f(α)=0は例4.4の「αをf(X)=0の一つの根とし」から分かりますね。
>(2)f(x)=f(|X)=b0+b1|X+…+bn(|X)^n=|(b0+b1X+…+bnX^n)=|f(X)=|0
R=ℚ[X]/(f(X))から|f(X)はf(X)で割った余りが0なので、|f(X)=|0ですね。
>(3)ℚ[α]は体ℚ上{1,α,…,α^(n-1)}の1次結合ですべて表される。
例4.4から、ℚ[α]={a0+a1α+a2α^2+…+an-1α^(n-1)|ai∈ℚ}で自明ですね。
>何故ならば、{1,α,…,α^(n-1)}が1次従属とすると
a0+a1α+…+an-1α^(n-1)=0,ai∈ℚ,∃ai≠0
なる1次関係式が存在する。このとき、
h(X)=a0+a1X+…+an-1X^(n-1)∈ℚ[X]
とおけば、h(X)≠0である。
h(X)≠0の理由は、a1=a2=…=an-1=0でないからですね。
>ゆえに、σ(h(X))=h(α)=0よりh(X)∈kerσ=(f(X))
最後の所のkerσ=(f(X))は例4.4の、
「kerσを考えよう。
(f(X))⊂kerσは前と同様に容易に確かめられる。
σ(1)=1≠0であるから1∉kerσ したがって、kerσ≠ℚ[X] ゆえに、
(f(X))⊂kerσ⊊ℚ[X]
一方、f(X)は既約多項式であるから、定理4.11より(f(X))は極大イデアルである。したがって、(f(X))=kerσでなければならない。」
から分かりますね。
>すると、
n≦degf(X)+degg(X)=degh(X)=n-1
であるから矛盾である。
degf(X)=nより、n≦degf(X)+degg(X)(等号はg(X)が定数の時。)
また、degf(X)+degg(X)=degh(X)は、h(X)=f(X)g(X)と定理4.1から。
定理4.1
Rを整域とする。多項式R[X]の元f(X),g(X)について、積f(X)g(X)の次数はf(X)の次数とg(X)の次数の和である。すなわち、
degf(X)g(X)=degf(X)+degg(X)
>以上によって、ℚ[α]は{1,α,…,α^(n-1)}を基底とする体ℚ上のn次元ベクトル空間である。
n個の基底だからn次元である。例えば、ℚ[√2]=a+b√2(a,b∈ℚ)だったら基底は{1,√2}で2次元である。
また、ℚ[X]/(f(X))は{1,|X,(|X)^2,…,(|X)^(n-1)}を基底とする体ℚ上のn次元ベクトル空間である。(同型なのだから、同一視して良いという事。)
今回、線形代数の分野について全く検索しなかったが、意外と覚えているものである。もう30年近く前の知識である。
おまけ: